第2章 2-5 異世界でも人間関係
「……なるほど」
「なに、あんたたち、いつのまにこいつと仲好しこよしになったの?」
みると、ユズミが頬を引きつらせ、食堂の入り口で立っていた。
「いつまでもなに云ってんだよ、おまえはよ。仲間じゃねえか。七選帝侯国の」
「は!? わたし達はいくら仲がよくても、お友達じゃあないのよ。代表選手となるのに、手加減し合ってる場合!?」
「なに云ってんだおまえ、メシ食うときに仲がいいのと、ハイセナキスは別だろって」
「どうだか……」
鼻を鳴らし、ユズミはいつもの桜葉とは逆に一人で離れた席へ座り、黙々と食事をはじめた。
「気にすんな」
アークタも無視して食事を続ける。桜葉はそんなユズミとアークタをきょろきょろと見比べるだけだった。
「……許してあげて。ユズミはクロタルと同じ国の出身で、彼女がドラムへ入る前から知り合いだったから。クロタルがイェフカに入るのを、それは楽しみにしていたの」
小声でランツーマが教えてくれる。
(なるほど、そりゃあ……面白くねえなあ。おれだってそんなんだったら面白くねえよ。きっとだけど)
桜葉はよく分からないがもうとにかく申し訳ない気持ちとなり、クロタルにもユズミにも妙な贖罪感を抱いて、そんな自分に不愉快なまま早々に食事を終えた。と、云っても食べるのを切り上げたのではなく、早食いしたのだ。
「なんか、胃の調子が悪いぞ」
胃なんか無いのに……。桜葉は胃のあたりを抑えながら、気が昂って休眠モードにも入ることができずその晩を過ごした。
「なんでこっちの世界でも人間関係に悩まないといけないんだよ、クソが」
ため息しか出ぬ。
3
それから何日か、桜葉はランスチャージや、自在に空中を舞って戦う機動戦の稽古を行った。
「素晴らしいですよ! これなら充分に間に合います。アークタにもひけをとりません!」
クロタルが熱心に自分を指導してくれるのを、心から申し訳なく思ってきた。これは良くない。しかし、元より日陰を選んで生きてきたような桜葉は、どうにもその思いを拭えなかった。
(好きでイェフカに入ったわけじゃあねえしなあ)
不可抗力なのだから、そんな考えを持つこと自体、不必要なのだ。が、これは性格だ。どうしようもない。
かといって、そのまま最後まで悩まないのも桜葉の性格だった。
(あーー~っ、あああああああ、考えててもしょーがねー~っととっとっとう。こんなふざけた世界のことなんざあ、知ったこっちゃねーってえの)
学校でも会社でも、ひねくれた厭世観で生きてきた四十年の本領発揮だった。
(結果を出せば文句ねーんだろ、ちくしょうめ。やってやるぁ!)
こうしてたまに意味もなくやる気を出すので、そこそこ人生を歩けてきたのである。
と、刀の試作ができあがったとの連絡が竜場まできた。ガズ子を職員へまかせて休ませ、クロタルと急いで工房へ向かう。
「おう、イェフカさん。まずは、どんなもんだろうか」
「うおお……」
桜葉が瞠目する。思っていたよりそれっぽい。しかも、五振りもあった。
だが……。
剥き身のままで荒研ぎの刀を、入念に確かめる。その真剣な表情を、クロタルが頼もしそうに見つめていた。
刃紋は指示していないので無い。というより
(ちょっと待って、なにこの人、恐い……実は異世界から来た刀匠の子孫とか?)
思わずバストーラを見つめた。ドヤ顔も、さもありなんだ。
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