第2章 2-3 アークタとの対話
褒められるかと思った桜葉は拍子抜けしたが、普通に良かったのか、ドラムだと初めてでもあれくらいは普通なのか、意味を図りかねてちょっと考えてしまった。
「問題は白兵戦です。作られている新しい武器は、どこまで進んでますか?」
「もう少しで、試作品ができるようです」
確かに、バストーラの使いからそう聴いていた。
「では、それまで
「はい」
食堂の前でクロタルと別れ、中へ入ると珍しくアークタが一人で食事をしていた。
桜葉はいつも通りに離れた場所へ座ろうとしたが、
「おい、こっち来なよ!」
「えっ……いいんですか?」
「あたいはユズミとはちがう。あんたのことなんか、気にしないよ」
やや戸惑いつつも、情報収集のために遠慮なく前の席へついた。給仕がさっそくいつもの料理を大量に運んでくる。
肉体的には何も感じずとも、魔力炉が消耗したのか、急激な空腹感に襲われ、桜葉は眼の色を変えて貪り食べだした。
「チラッと見てたぜ。初めてにしちゃ上出来だよ。あたいが初めてやったときより、ずっと上手いよ」
「えっ……そうなんですか?」
肉を頬張ったまま、桜葉は目を丸くする。
「四人で槍を使うのは、あたいとあんただけだ。すげえライバルが登場したもんだ」
その割に、明るく振る舞っているのはアークタの性格なのだろうか。それとも、そう云っているだけで本当は桜葉など敵にもならないという余裕なのか。
「だけど、やっぱり最後はドラゴンからたたき落としての白兵戦だ。竜騎戦だけで決着をつけるのは、単調で飽きるからな」
「なるほど」
「それと、あの損害判定旗よ」
「損害判定旗」
あの、格闘ゲームによくあるような、白い幕が赤く染まって行くやつだろう。いわゆるダメージゲージだ。
「あれが導入されてから、より白熱した接近戦がとても人気があるんだ」
「そうなんですか」
「そうなんですかって……他人事みたいに云うなよな」
「す、すみません……全部忘れちゃったもので……」
「そうみたいだなあ。そんなことってあるんだな」
アークタはため息まじりに、イェフカの顔をまじまじと見つめた。桜葉も見つめ返す。顔の作りは人間とほとんど同じだが、やはり目玉が人形だ。
(表情は読めても、感情は読めないなあ)
などと思ったが、人間を相手にしても感情など読めたことは四十年間でただの一度も無い。
「あの、なに……キスでしたっけ」
「ハイセナキスも忘れたの」
「そうそう、ハイセナキスって、どういう……」
「どういうって……」
少し、唖然としたような表情の後、座学なんてあたいも忘れちまったよ……などと苦笑しつつ、アークタは懇切に解説した。
「世界中で人気の競技さ。大昔の戦争に由来しているから、派手で危険で昂奮する。大衆を熱狂的に惹きつけてる。人間が何人死んでも不思議じゃないくらいの大金が動いてる。賞金と賭けでね」
「賭け……」
サッカーみたいなものか。いや、総合格闘技に近いか。
「ドラムが開発される前は、人間がドラゴンに乗ってやってたんだけど、想像の通り死傷者続出。かといって、禁止もできないほど人気が出てた。それで、魔法技術の結晶であるドラムが開発されたのさ」
「いつごろですか」
「いつ」
アークタの顔が惚ける。天井や壁を見回して考えこんでいると、
「およそ五十年前だよ」
ランツーマの声がして、桜葉が振り返るより早く、イェフカの隣の椅子を引いて座った。すぐさま給仕が料理を運ぶ。
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