第1章 2-6 ハイセナキスの選手

 桜葉は内心驚いた。予想外の答えだった。もしかして、そのためのこのアンドロイドボディか。未知の機構で動いているこのドラムは、人間ではできない動きをするのかもしれない。


 まてよ。

 「魔法戦もありですか」

 「アナタが魔法を遣えれば」


 (つかえねーよ。いやまて。遣うやつもいるのか……)

 桜葉の少ない頭脳が、多少、得意分野だけにいつもより多く回転する。


 (魔法相手に、こんな普通の武器で戦えってか。いや、戦えるから普通の武器を薦められてるのか。それとも練習用か)


 その真剣な表情に、クロタルも意外だという顔つきになってきて、珍しく彼女のほうから話しかける。


 「少し、練習戦を見ますか?」

 えっ、と顔をあげ、

 「ぜ、是非!!」

 「こちらへどうぞ」

 武器庫を後にして、またあの競技場へ向かった。


 競技場へ向かうと、ちょうど三人の女性と、三頭のガズンドラゴン、それに調教師、飼育員、その他大勢が集まっていた。二人は観客席へ出て、見やすい席へ並んで座った。


 桜葉はすぐにわかった。似たような乗馬服に近い服を着ている三人の女性。ドラムだ。見た目は十代後半が二人と、二十代半ばほどの大人っぽいのが一人。三人でなにやら談笑していた。


 (なんだ……殺し合いくらいすげえ競技かと思ったら、まあまあふつうのスポーツっぽいな。試合は真剣勝負でも、ふだんは仲好しってか。相撲みてえなもんだ)


 少しだけ安心する。


 一時間ほどドラゴンを慣らし、また三人が武器を地上でふるって感触を確かめていた。よく観察する。笑顔のまぶしい、黒髪を短くした背の高いのは、長い通常タイプの馬上槍に、腰にはショートソードっぽい長さの剣と思わしき刃物を左右両側につけている。西洋剣……いや、日本刀以外は基本的に「鞘引き」という「確立した抜刀のための技術」が無いため、自分の腕より長い剣は抜けない。そのため、あまりに長くて抜身のままの剣もある。あの小剣であれば、それぞれ片手で一気に抜けるだろう。


 茶金髪で大人っぽい、体系もグラマラスに見える一人は、なんと弓だ。しかも長弓だった。ドラゴンに乗って弓とは……桜葉は驚いた。


 (こっちにも流鏑馬やぶさめってあるんかね)


 そして、腰に大きめの剣もびている。先ほどの黒髪の小剣もそうだが「帯びる」すなわちベルトから金具で鞘を吊っている。日本刀でも、帯に「差す」刀と、帯から頑丈に編んだ紐で「吊る」太刀とある。太刀を吊ることを「帯びる」という。桜葉の感覚では、西洋剣は「帯びて」いた。


 「あの人、弓なのにあんな大きな剣も」

 興奮気味に思わず口走ったが、クロタルも普通に答えた。


 「ユヅミは、槍も届かない距離からの遠距離戦と、接近してはあの両手持ち剣で戦う珍しい戦闘型です」


 「ユヅミ」


 名前だろう。ナントカキス仲間? なのだろうから、名前から覚えたほうが良い。そう思った矢先、クロタルが、


 「あちらの黒髪がアークタ。長槍と小剣の二剣流です。あちらの茶金髪が、ユヅミ。そしてあの背の小さい茶髪が、ランツーマ。彼女だけ魔法戦です」


 「魔法戦」

 確かに武器を持っていない。

 (魔法戦……)

 想像がつくような、つかないような。ゲームの通りではない気がした。


 「あの三人にアナタを加えた四人が、七選帝侯国のハイセナキス選手です。四人で七選帝侯国代表を争います」


 「七選帝侯国」


 国が七つあるということか。と、すると共同代表みたいなものか。しかも、四人しかいないのか。そもそも、選帝侯国ってなんだ?

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