第1章 2-7 模擬戦

 桜葉の世界史の薄い知識では、選帝侯とは神聖ローマ帝国の「役職」で、力を持った国王や大司教などが任命されるものだった。選帝侯という侯爵がいるわけではない。従って、選帝侯の領地は王国、教会領、公国などであるはずだった。


 (違う世界だからな……こっちにはあるのかも)


 その辺も、少しずつ聞き出さないといけない。しかし今は、このハイセナキスとかいう競技のことを勉強しなくては。


 真剣な顔で、競技場を見入る。クロタルがその横顔を見やり少しうなずいた。


 「アークタは帝国標準のクレモー式一二型ドラム、ランツーマは同じく帝国標準のヤハルン式二一型ドラムです。ユズミは、クレモー式二二型ドラム。アークタより新型です」


 云ってる意味がまったくわからなかったので、桜葉は黙っていた。


 「そしてアナタは、最新式にしてこれまでと完全に異なる概念で開発された、試作スヴャトヴィト式零零参型です」


 「試作」

 それ、主人公機によくある……チート主人公じゃなきゃ操縦できない。


 (大丈夫か、おれ……)

 どう考えても自分はモブの一般兵だった。量産機ですらもったいないレベルの。


 まず、アークタとランツーマが竜へ乗る。竜の背が高いので、専用の台から乗り移った。鞍があるように見えたが、無い。手綱もない。それで空中戦か。桜葉は度肝を抜かれた。どうやって制御するのか。こっちの人間の特殊能力とかだったら、アウトではないのか。


 車輪付きの台が外され、関係者も引っこむ。広い競技場は、二頭の竜と二体というか、二人のドラムだけとなった。


 とたん、ブザーめいた音が鳴って、上空に白い大きな横断幕のような横に長い布が二枚、浮かび上がる。


 (なんだ、ありゃ……)


 気がつくと、強力な四肢の力と尾でガズンドラゴンは大きくジャンプし、そのまま風切り羽の生えた美しい赤と白、黄色の翼を広げて空へ舞った。


 「すげえ!」

 桜葉が思わず素で感嘆する。

 だが、そこから繰り広げられる練習試合に声も無くなった。


 アークタが定石通りのランスチャージ! それも三次元だ。どうやって竜を操っているのかまるでわからないが大きく上空をとって、そこから急降下する。


 (一撃離脱戦法か!)

 桜葉は興奮した。


 迎え撃つランツーマ、両手を大きく広げ避けるそぶりもない。その両手の合間に、稲妻が走った。


 バアッツ!! 衝撃と甲高い波動音がして、上空のはためく横断幕にそれぞれ赤で色がついた。どっちがどっちだかわからないが、だいたい、右が20で左がそれより少し少ないほど……15から18ほどか。


 (布が染まった……?)


 それから、ランツーマの反撃。両手を合わせた印のような、構えのようなものからなんと薄い青色をした光線が出た。


 (スペ……光線かよ!)


 それを上空でかわし、アークタが再度急降下! だが、迎え撃つランツーマのほうが早かった。巨大な光の盾を形成して、それをアークタへ真正面から叩きつけた。バアッッシ!! 光と衝撃が観客席まで届き、大きく右側の布が赤に染まった。半分近い。


 (なるほど、ありゃHPのパラメーターだ!!)

 ちらりとクロタルを見ると、一観客として興奮気味に凝視している。

 桜葉は話しかけるのを躊躇したが、クロタルのほうから、


 「一般的に、魔法戦のほうが不利なのですが、ランツーマは最新の二一型ですし、魔力変換速度や攻撃力が高いのです。それに戦い方もうまい! アークタはなんとか地面へ落として白兵戦に持ちこもうとしているのですが、動きが単調で読まれています!」


 勝手に解説を始めた。桜葉は、クロタルのこんな感情的な表情を初めて見た。この国の人間にとって、これほど熱中する競技なのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る