第1章 2-5 ハイセナキスの武器選び
それも、わけのわからない別次元、別空間、もしくは遠く離れた天体と思われる世界で。
(異世界転生……ね……)
無意識に、ポッドの取っ手をひねり、カップへ水を出して飲んでいた。
「おれの知ってる異世界転生は、もっと楽しそうだったけどなあ」
午後、何事もなかったかのようにクロタルが迎えに来た。飯には早いと思ったが、その通り食事ではなかった。食事は一日二回と定められていた。気づいたが、時計はないが街のどかで定期的に鐘が鳴るのだ。まさに江戸時代だった。
(十三時間で燃料ギレだっつーのに、朝と晩じゃリスク高くねえか?)
後で意見具申しておこう。もっともする相手を、クロタル以外に発見してから。
(それとも、一日が二十四時間じゃないとか……)
いろいろ考えるが、まだまだ情報不足で判断がつかない。
さらにもまして無表情となったクロタルが、声までますます冷徹の棒読みとなり、
「試合で使用する武器をお選びください。こちらへどうぞ」
などと云う。返事もできずに、ただついてゆく。
廊下を進み、三階から階段を下りて再び闘技場へ向かう。いわゆるバックヤードと思わしき場所へ入って、何人かの職員ともすれ違う。みな、一様に桜葉をみて目を見張っていた。
「新型だ」
「あれが噂の……」
「でも、入ったのは当初の候補になかった……らしいぜ」
肝心のところが聞き取れない。桜葉はもどかしかった。
(ううん……どうも、あの死んだお姉ちゃんですら予定外の精神移植だったっぽいな……)
それなのに、さらに予定外……いや、想定外の「おれ」だ。
理不尽だ。そう思う。しかし、なってしまったものはしょうがない。それにあの事故で(おそらく)死んでいた身だ。曲がりなりにもこうして生きている? のだから、御の字というべきか。いや、そうでも思わないとやってられない。
クロタルも訳ありっぽいし、焦っても何も進まない。桜葉の妙な楽天的性格が幸いし、精神の拮抗はまだ保たれている。
「こちらです」
クロタルに案内された部屋は、ようするに武器庫だった。ゲームやマンガ、アニメで見たことがあるような、ないような。
「…………」
ずらりと壁や専用の台に立てかけられ、あるいは床に置かれている様々な武器の大部分は、槍類だった。中でも、巨大で細長いなラッパみたいなものが多数ある。
(こりゃ馬上槍……ランスだ……なるほど、ドラゴンランスってやつだな)
ランスがすべてラッパを逆さまにしたようなものではなく、普通の槍もランスとしてある。騎兵槍というか。とにかく、全体の七割がそういった槍類だった。
その中で、桜葉もよく知っている剣、メイス、楯もあった。ハンマーや手斧もある。ただ、どれも片手用のものに見えた。馬上だったら反対の手で手綱を握るから片手武器が基本だが、弓を打つ騎兵もいるので必ずしも騎兵の武器が片手用武器だけとは限らない。
(それに、竜に手綱があるとは限らない。現に、さっき見たガズンドラゴンとやらは、手綱がなかったような……)
腕を組んで、考えこんでしまった。それを、クロタルが冷たい目でいつまでも見つめていた。いくら待ってもほかに聞く人物が現れないので、もう開き直って、
「武器って、一回選んだらそれで変更不可能でしたっけ?」
「いいえ、いつでも好きな時に好きな武器へ変更できます」
意外とまともに、そして即答が返ってくる。
(なんにせよ、ナントカキスのルールがわからないことには選びようがねえな……)
そこは、武道をやっているだけあって慎重だった。
(槍はまあ、いいとして……確か本当のランスチャージも、近接戦に持ちこまれた時のために近接戦用武器も装備してたはず)
再びクロタルを見やり、
「武器って、いくつまで装備可能ですか」
「いくつでも」
(まじか)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます