廻っていく宇宙の片隅に。
「俺は、やってない」
「まぁ誰でも自分に疑いがかかったらそう言うでしょうね」
さっきからこの会話の繰り返しだ。
一向に進展はしない
確かに過去のことがある俺に疑いが持たれるのは当たり前のことなのかもしれないが、俺は確実にやってない。
俺に人殺しをする勇気なんて持っているはずがない
もし殺したとしても罪悪感により自分で自首しに行くだろう
「はぁ…認めないのね?」
「認めるも何も、やってないって言ってるだろ」
「…そう、じゃあアリバイ、あるかしら?先週の火曜日のアリバイ。」
「先週の火曜…あ。あるぜ!?アリバイ!」
あら、そうなの。と思ったよりも驚かれない
あぁそうか、湯佐野が次に言う言葉が自然と理解できた。
それなら…とあきれ顔の湯佐野を気にせず、スマホをスクロールしていく
「西園寺くん。自分に疑いをもたれてるって時になにしてるのよ…それより、」
「これだろ?お前が求めてるもの。」
ぐいっとスマホ画面を湯佐野の顔の真ん前まで近づける
これじゃあ何も見れないわよ、と少し押し返され画面を見た瞬間湯佐野の顔色がほんの少しだけ変わったのがうかがえた
「な?証拠もしっかりあるだろ?」
「…確かに。あなた少しは頭、マシになってたのね」
「最後の一文、絶対いらないだろ」
でも、これで湯佐野が俺にかけていた容疑は晴らされただろう
あの時写真撮っておいてよかったなぁ…今回だけは滝流に感謝する
先週、滝流が遊園地のチケットが当たったとかで二人で行ってきた。
さすがに最初は、男二人で遊園地はキツイ…とも思ったが、いい気分転換になったし、思ったより楽しめた
記念に、って向こうの人に撮ってもらった1000円した写真(日付入り)を撮っといてよかった…!
「うーん、じゃあそっか…西園寺くんじゃないのか」
「あぁ、これで分かってくれただろ?」
「えぇまぁ…」
なんだよ…浮かない顔して…
俺、変なこと言ったか?
「ねぇ西園寺くん」
「なに?」
「疑ったことは謝るわ、ごめんなさい」
「え?え、っとあぁ、別に謝ることではないだろ」
「そう…ありがとう。それでね、お願いしたいことがあるのよ」
「お願い?」
コクリと目を瞑ってゆっくり頷くと、湯佐野は俺に近づき耳元で囁いた
昔みたいな…あの単調な声で。
¤
すぅすぅとまるで漫画の世界の主人公みたいに眠る湯佐野。
なんで俺がコイツのお守りしなきゃいけないんだろうなぁ…
「あーくそ、俺も眠いってのに…」
ていうか本当に現れるんだろうな…
湯佐野の言ってた博霊園がここに来るっていうのは。
先程、湯佐野の家でこいつに言われたこと。
それはなんとも簡単でなんとも難しいことだった
『私の助手になって』
どうやら湯佐野は霧下が亡くなり、全員にあの紙が届いたことには何かしらの事件性とやらがあり、犯人はその全員を殺そうと考えていると踏んでるらしい。
そこまでは俺もなんとなくは気づいていたけど、俺はなんとその犯人探しに付き合わされてしまったっていうわけ。
もちろん最初は断ったけど、こいつの目怖かったし、なんとなく断れない雰囲気というか…
まぁ別に助手って言ってもそんな大変なことはしないって言ってたし、一応興味もあったので了承した、っていうのは俺だけの秘密。
そして今現在、博霊園という霧下と同じ下っ端だったやつを尾行、というか湯佐野が言うには博霊園は今ホストらしく、この近くで働いているとの噂があるとかないとかで車の中で見張っている
この情報も曖昧だもんなぁ、いなかったら無駄足なんだけど
言い出したこいつは寝てるし…
『私9時過ぎるとだめなんだよね…自分でも意識してないうちに眠っちゃうの』
って湯佐野は言ってた
自分で意識してないうちに眠るってどういうことだよ…アニメかなんかかよ
そう思ってたんだけど、ホントに寝やがった…ビックリ。
そうだな…まるで、死んだように。ぐっすりと。
¤
「ふぁーあ」
大きなあくびを出してから自分の手元に目を落とす
これは湯佐野から預かった今現在の博霊園の写真。
チャラチャラしてるなぁ…これだけ見たらまぁホストってのも疑わなくはないけど
俺的にはどうやってこんな真正面でしかもカメラ目線で全身が見えるような博霊園の写真を湯佐野が持ってるのかっていう方が疑問なんだけど
さっきからあの店の扉からは何人もの女性やらホストっぽい男性が出入りしているがこの写真のような博霊園らしき人物は見当たらない
もう夜の11時。そろそろ本気で眠い
昨日徹夜して課題終わらせたから全然寝てないのに…。
¤
あれから30分たった頃だろうか
また入り口から2人の男女が出てきた。
今回もどうせ違うだろうと思いながらも写真と見比べてみる
「…あ!?」
ここまで来るともう深夜テンションなのか、それともやっぱりやっと見つけた喜びからなのか、大きい声が出てしまった
どうしよ…!見つけちゃったよ博霊園!
えっとまずは湯佐野を起こしたほうがいいかな…起きるかは分からないけど
「湯佐野!起きろ!」
「ん、なによ…」
はやっ、起きるのはやっ
起きるのだけは早くて寝起きいいんだな…
「博霊園だよ!あれ、そうだろ!?」
「んもう…興奮しすぎよ…どこ?」
「あそこだよ!入り口にいるだろ!」
博霊園と思われる人物は入り口の前で女の子と仲睦まじく話していた
ホストのことなんて何も知らないけど、女に媚び売る仕事なの?
「博霊園ね…」
「やっぱりか。それでこれからどうするんだよ」
「西園寺くんは車の中にいて。私が博霊園を連れてくる」
「あぁわかった、ってはぁ!?連れてくるってどういうことだ、おい!話を聞いてけ!」
俺の話なんて一切聞かず、湯佐野は急ぐように走っていってしまった。
連れてくるってどういうことだよ…俺一応あのときの被害者さんなんだけど?俺の意見なしにあいつ連れてくるのかよ
走っていった湯佐野の方に目をやると、何故か湯佐野と博霊園ともう一人の女性と話し込んでいるようだった。
あれ?なんかあの女性、凄い穏やかな顔して帰ってったぞ?
あれれ?ちょっとまって?凄い笑顔の湯佐野と泣きそうな顔した博霊園が戻ってきたぞ?
「お待たせ。西園寺くん」
「お、おう」
「博霊園、早く入りなさいよ」
「し、失礼します」
ガチャンっと大きな音を立てて車の扉が閉まった
少し乱暴に見えましたけど湯佐野さん…これ新車ですよ?
「それじゃあ本題に入りましょうか」
ビクリと博霊園が少し揺れたのがバックミラーから伺えた
湯佐野への恐怖なのか、昔の虐めていた俺がいて、何か言われるとか考え込んでいるのか、俺には分からなかった。
「おう、手短に頼むぞ」
湯佐野の期待通りであろう言葉を投げかけてやった。それに同意したように湯佐野はゆっくり目を閉じた
つぼみの落ちた日 七竈 @t_oj_n
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