事の始まり 【flash back】

「憐の負けー」


「…嘘だろ、絶対勝てると思ってたのに」


「そう悔やむなって。簡単な罰ゲームをするだけだからさ」


「そうそう、本当に簡単だから」


 そう言って一緒に罰ゲーム付きのババ抜きをしていた俺の友人、滝流仁、稲川大樹、雨西泰正はにやにやと気色の悪い笑みを浮かべてから俺の肩に手を置き、ひと呼吸置いて言ってきた。



 ¤



「それで、西園寺くんって言ったっけ?君は私と付き合いたいわけ?」


「えと、まぁそうです」


「ふーん」


 過去一であいつらを恨む


 罰ゲームだからといって『校内一美人の湯佐野さんに告白してこい』だなんて。

 振られるの目に見えてわかるじゃないか!


「西園寺くんは私のどこを好きになったの?」


「えっ!?あ、えっと…」


 考えてもない質問が来て心底ビックリする。


 いやだって、告ってすぐ振られるもんかと思ってたし、セリフも何も考えてないし…

 しかもなんとなく目つきが怖い。俺なんかしたっけ


「ま、前にさ、話したのおぼえてる?その時に、ちょっとした仕草とかそういうのに惹かれて…好きになって』


「あら、そうだったの。ごめんなさいいろんな人と話してるから毎日話してない人はあんまり覚えてないのよ」


「あ、うん」


 それは分かってたていうかまず話したことないし。

 覚えてなくて、知らなくて当然だ


「でもそう…そっか」


 うんうんと頷かれ、湯佐野は俺の前に一歩、踏みよってきた


 え、何これ。どういう状況?


「いいよ。付き合おっか、私達」


「え…」


「でもその代わり約束してほしいことがあるの」




 高校一年12月の寒空の下、俺こと西園寺憐と学校内一美人の湯佐野苺飴はある約束という名の契約を結び、正式に付き合うことになった



 ¤



「いいなー憐、湯佐野さんと付き合えたんでしょ?」


「あ、あーまぁね」


「なんで湯佐野さんはこんな憐みたいなやつと付き合ったんだろうね」


「ほんとにこいつのどこがいいんだか…」


「そんな突き放す!?」


 俺が湯佐野と付き合ったことを3人に話したらこの話が止まらなくなってしまった

 いやまぁこうなるのは分かってはいたけどな。


 でも確かになんで湯佐野はあの約束だけで俺と付き合ってくれたんだろうな

 約束…『付き合っていることは誰かに話してもいいけど学校内では話しかけないで』って。


 まぁ俺から話しかけるのは勇気いるし、あの約束はいいんだけど、なんか引っかかる

 あのときの目、凄い怖かったし…


「おーいー?憐?聞こえてる?」


「えっあ、ごめん。なんだっけ?」


「だから、なんで憐が湯佐野さんと付き合えたのかって」


 なんだ、まだその話の途中かよ。

 こいつもめげないな


「なんでだろうね」


「何その言い方…うざ」


「そんな蔑むなって」


「俺も彼女ほしい!」


「仁には無理じゃね?」


「うんうん、大樹に同意。仁の相手してくれる人なんて…小学生くらいじゃない?」


「なんだと…ふざけんなよお前ら!」


 俺が湯佐野と付き合った日の翌日。

 その日はいつもみたいに4人で馬鹿やって教室でワイワイと遊んでいた。


 ¤


 そして気づけばあの日から、一年が経っていた。もちろん同時に俺たちも一学年上へ上がった

 奇跡的に俺たちは去年と変わらず同じクラスで、毎日変わらず同じことを繰り返していた


 ¤



 そんなある日、俺たちが変わらず過ごしていた時のことだった。

 教室の扉がガラリと大きな音を立てて開いた


「おい、ここに西園寺ってやつ、いるか?」


 ガタイの良いガッチリとした体型の、ネクタイの色的に3学年だと思われる男子がズンズンと入ってきた。


 あれ?ていうか今、西園寺って言わなかった?

 気のせいかな…


「憐、呼ばれてるんじゃない?」


 雨西が何かを察したように小声で話しかけてきた。

 やっぱり俺なの?でも俺あの人知らない…

 なんか怖いし、皆何も言わないからここはやり過ごそう


「西園寺ならここにいますよ?」


 滝流このやろ、なんでこいつは空気が読めないんだ!


「お前か?西園寺は」


「…はい、そうです」


「ふーん、こんなひ弱そうなやつがねぇ…まぁいい、これを渡してくれってよ。」


「えっ、うわっ」


 薄水色の紙を半ば強引に握らされ、その人たちは帰っていった。

 なんだこれ。随分丁寧に織り込まれてるな…


「なに?それ」


「あ、あぁ…見てみるか」


 教室内の全員がこちらを向いていたなんて気づかずにカサカサと音を立てて紙を開いた


 そこにはまるで殺害予告のように新聞の切り抜きを使われた文字で書いてあった


『今日の放課後5時に体育館裏に来い』


 それは簡潔でそれでいて恐怖を感じさせ、まるで本当に殺害予告のようだった


「なんて書いてあったの?」


 稲川が覗き込むように聞いてきたが、俺は何故か反射的にそれを隠してしまった


「あ、えと…」


「なにー?もしかしてラブレターとか!?」


「そ、そう!なんか今日の放課後来てほしいって…」


「えー!ホントに!?なんで憐だけそんなモテんだよー」


 グチグチと言っている滝流にこのときだけは感謝する。

 これでなんとかバレなさそうだし


 ていうかこれ、いったほうがいいのかな

 でも逆に行かなかったらなんか怖いし


「俺もモテたい…」


 俺が悩んでいるのになんて気づかず、滝流はモゴモゴと口籠んでいた



 ¤



「5時ってこんな暗いんだな…早く行って早く帰ろ」


 夜一人で体育館裏に行くという機会がまずない。というか体育館裏とか初めて行くんだけど

 俺呼んだの誰だよ…名前くらい書いてくれても良かったのに


 そう思って真っ暗な角を曲がったとき、ゴンッと鈍い音を立てて誰かに殴られた。



 ¤



「うっ…痛」


 目が覚めると真っ暗な倉庫のようなところに横たわっていた。

 何処だ…ここ


「あら、やっと目が覚めたのね。」


「え…」


 単調な話し方、必ず相手を下に下げたような物言い

 この話し方をする人物を俺は知っている。


 パチンッと響くような音が鳴った後、電気がついた

 暗闇に慣れすぎていたせいでこういう急な点灯に目がついていかない


 やっと慣れたかと思い、薄く目をあけると目の前には俺の思った通りの人物が跳び箱のような器具に腰かけていた。


「久しぶり、でもないのかしら…あぁ、昨日アイコンタクトくらいはとったかしら」


「湯佐野…なんのつもりだ」


「なんのつもり?別に大したことじゃないわ。…じゃあお願い」


「は?うわっ」


「動くんじゃないからな」


 気づかないうちに、俺の後ろには二人ほど回り込まれていた。



 ¤



「まぁ今日はとくに何をするって訳じゃないの。ただ優しい私がこれからのこと、教えてあげるってだけ」


「どういうことだ…」


「あなたはその人たちの恨みを買っちゃったのよ。ホント可哀想な人」


 可哀想だなんて思ってもいないだろう。

 湯佐野は今この時を楽しんでいるように見える


 本当に侮れない女だ

 皆、顔に騙されてるだけってことか。


「西園寺くん、あなたって色々悲しい人生よね。」


「何言ってる…」


「ふふっ、別にいいわ。今日はここまでとしましょう。お友達も、お迎えに来てることだし」


「は?え、うわっ」


「明日から、楽しみね」


 無理やりに近い形で外に投げ出され、倉庫の扉がガチャンと閉まった


 なんだったんだ…

 ていうかさっきお友達、って


「やっぱり…裏があったんだな」


「え、雨西!?何でここにいるんだよ!」


 後ろからのこのこと出てきた雨西に心底ビックリする。


 ここにいる理由がわからない。

 しかも、平然と今のことを語っているのもしんじられない


「おい、雨西…」


「ん、あぁ悪かったな。ちょっと考え事してた」


雨西は罰の悪そうに苦笑いを浮かべ、俺の方へ向き直った。

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