第六話

 ぼくはてきちよくした。

 ぼうばくたる人生の迷路のなかでぼくはせんかいしていた。どの〈道〉をえらんだらいいのか。どの宇宙をえらんだらいいのか。ぼくはなにが一番仕合わせかをこうかくする。ないに解答はせんめいされた。こうかくするまでもないのだ。ぼくには愛するひとがいる。ほど平平凡凡なる人生でも最愛のひととひつせいをともにできたらそれは最高のせきだ。なぜいままで計算しなかったのだろう。綿めんばくたるわんきよくした一本道の最涯てのドアをノックして〈はつこいのひとに告白しにゆく分岐〉をだ。ほうはくたる大宇宙の波動関数を計算できる神であるぼくならばはつこいのひととえんおうちぎりをかわししよくてんをあげいつだんらんの平和を享受することなど児戯にひとしい。はずだった。ぼくは喫驚する。〈多重露光〉でみえる世界のなかではつこいのひととの人生を選択するときようこう〈素粒子レベルでの波動関数がプランク単位で確定する〉ひつきようこいびととむすばれると一本道の人生になる〉のだった。には多重露光はなくひとつの人生しかみえない。窮極集合のなかでははつこいのひとと結婚したのち離婚したり事故死したりする〈道〉もあるはずだがいんの選択ののちは一本道になる。ほかの人生は消滅し選択できなくなるわけだ。ひつきようぼくがはつこいのひとのすみへとまいしんし〈きみがすきです〉というとはつこいのひとはきよしそうながんぼうで微笑し〈ありがとう〉といってくれる。からぼくは鉄工所の従業員としてしんしようたんこいびとさんらんと双子を身籠もる。一卵性双生児のきょうだいは中学生それぞれいじめられて〈二本の道の最涯ての地で〉同時に自殺してしまう。はつこいのひとは重度の大鬱病にかんしぼくは仕事と介護でろうこんぱいする。百億のよろこびと千億のかなしみののちにこいびとは重度のアルツハイマー病となりぼくの存在も忘却してしまう。へいする刹那アルツハイマーに肺炎を合併したはつこいのひとのびようじよくにてぼくは〈おぼえているかなぼくがながくまがりくねった一本道をたどってきみのドアへたどりついた日のことだあれは間違いだったのかな〉という。はつこいのひとは最期の断末魔に意識をめいちようとして〈ありがとう――あのときうちにきてくれなかったら――〉という。ぼくははいじん同然で余生をけみしてふたりの蜜月をすごしたマンションの一室で孤独死する。これしか〈道〉がなくなるわけだ。またこちらの一本道の〈分岐〉を選択すると自動的に世界の未来も決定し世界規模の戦争が勃発し巨億の人類がせんめつされることとなる。新資本主義圏と新共産主義圏との大規模戦争きようこうはいじくした新共産主義圏の残党が湾岸戦争からまんせしめられた世界的通信プロトコル上のるいじやく性をろうだんして世界中の原子力発電所を臨界事故にさせ人類は破滅する。全人類にとってもこれしか〈道〉はなくなる。ぼくの選択によりてんじようきゆうの大宇宙内のしつかいの波動関数も一本道にしゆうれんするからだ。絶望感うつぼつたるぼくはあいたいたる曇天からしゆうのふりそそぐ土曜日またくだんの高校物理学教師のもとへとまいしんした。教師は威風堂堂と傾聴してくれた。

 教師は一瞬沈黙した。

 ぼくは永遠に解答をまつぶんだった。

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