第五話

 ぼくは神になった。

 いな。神になったらしい。

 てきとうたる物理学教師の理論はめいちようとして理解しがたい箇所もあったしそもそも教師の理論があいまいたるへんしゆうにすぎない可能性もごうではなかった。ぼくは旧態依然としてみずからの脳髄にじやつせしめられた問題について疑心暗鬼を生じていたわけだ。実験してみた。いんもうの数字選択式たからくじを購入してみるわけだ。六個の数字を任免ちゆつちよくするロト6を三枚購入しそうごうして百%一等が当選する組合せをマークシートにごうした。単純計算ならば六百万分の一の確立でしか一等は当選しない。ぼくは一等二億円をろうだんした。こくそくうつぼつとなった。ぼくはほんとうに神になったのだ。結句たからくじこつぱいせつだんして自室のくずかごほうてきした。またはんぶんじよくれいの成人もしていたのでせきの競馬場や競艇場にもまいしんしてみた。いずれもルールさえさいしやくしていなかったがやら全レース大当たりだった。最終的にひつせいはじめてパチンコ屋にいってみたがはちめんれいろうたる銀球ひとつひとつの波動関数まで計算できるので大フィーバーし衆人環視のなかくりげてしまった。ぼくはけつした。みずからが神であるのならば神らしく人類を救済せねばなるまい。といえども派手にろうぜきすると政府機関や医療系の研究室にかつ視される可能性もひんせきできないので通信プロトコルから個人が特定されないちんなる公衆電話――くりの災害時ライフラインとなるために設置されていたのだろう――から各報道局や各専門機関に電話した。将来ほうはいと勃発するであろう旅客機の墜落事故やかすみせきでの自爆テロや医療機関での大量さつりく事件といったおうの可能性をでんし実際にいくばくかはしやはんの事件がのうに解決されたというネット・ニュースもりゆうらんした。いんの行動こそが神としてのぼくがらいした能力のなのかもしれなかった。ぼくの〈多重露光〉でみえる世界においては数年後のカリフォルニアかいわいでの大地震や数十年後の欧米における大規模戦争あたりも複雑系のべき常則のはんちゆうそくできたがまでせんに未来をげんするとぎよう混濁の社会のこんとんはとまれかくまれみずからのきゆうきようひやくがいの安全が保証できなかった。結句しゆんがいたる警察の嘱望により地区のプロバイダの履歴からくだんの公衆電話の場所がめいちようとされげんはできなくなった。みずからの能力をしんぴようしたぼくは最終的にいんの能力によってなる人生をまいしんすべきかせんばんこうした。聖はりうつど女優と結婚することもできたし国連の事務総長になることもできた。暗黒街をじつひとからげにろうらくするきよかいにもなれたし未来のあらゆるヒット曲を〈作曲者よりも迅速に作曲して〉世界一のミュージシャンになることもできた。ぼくは狂喜乱舞しながらもふうせいかくれいしていた。七十億の人類のなかで自分だけは量子論的世界という迷宮の〈地図〉をもっている。ぼくはしようせざるをえない。幸福の特異点だ。幸福のシュヴァルツシルト解だ。ぼくたちは想像をりようするものにこうせざるをえない。

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