第四話

〈きみが中途退学するおうに量子論における波動関数のしゆうれんはなしはしましたね世界でもっともけつけつたる物質である素粒子のはんちゆうでは物質は波動と質量という相補性をもっておりつぎの刹那の状態は分岐しているで二重スリット実験によって量子の波動関数は観測者の存在によってしゆうれんすることがわかりましたようにして観測者によって素粒子は波動状態から質量をもつ状態に変遷するのですがそもそも波動状態にあった素粒子は量子コヒーレンスといっていくつもの可能性をほうしており質量をもつに様様な状態となって〈分岐〉しますいんの波動関数のしゆうれんが分岐することによって宇宙ぜんたいが分岐してゆくのです宇宙でもっともさいたる物質のきまぐれで宇宙そのものが無尽蔵に分岐してゆくいんの分岐が物理現象にとどまるとするのがエヴェレットの多世界解釈で数学的現象まで内包するというのが窮極集合ですこれは脳科学における偶有性とかんれんし残念ながら〈普通〉我我は宇宙の分岐を選択することはできません喜劇にせよ悲劇にせよプランク秒単位で決定される世界を甘受するしかないのです閑話休題きみの脳髄におきた現象についてぼくはこんなふうに仮説をひようぼうします生命の危機におよび脳髄の反応速度がひようへんするひつきよう世界がゆっくりにみえる現象をタキサイキア現象といいますきみがタキサイキア現象を体験したにきみの脳髄に異変がおきたのです通常脳髄は10%の箇所で機能しており90%がグリア細胞といって脳髄機能の維持にりくりよくきようしんしていますで10%の箇所にそんがあればグリア細胞が同等の代替物となって機能するですがきみの場合脳髄のがいが甚大にすぎて90%のグリア細胞ぜんたいが10%の脳細胞の代替となったのではないかひつきよう脳髄の機能が九倍になったのですこれでタキサイキア現象のに〈世界が静止してみえた〉理由がわかります問題はタキサイキア現象の程度です脳髄にはクロック数といって世界の現象を判断する最小単位がありますもし十年しか生きられないけれども人間よりもクロック数が十倍じんなる生物がいたらいんの生物の十年は人間における百年にひつちゆうします極論かもしれませんがおそらくきみの脳髄はタキサイキア現象によってクロック数が極端にばいしたのではないかそれも宇宙内で最小単位であるプランク数ひつきよう5*10の-44乗秒までということですそうなるとアインシュタインの時空連続体仮説によって時間と空間はいちれんたくしようですから物質の最小単位も〈みえる〉ことになるにおいてきみは事故の刹那から物質の最小単位である素粒子の分岐もみえるようになったのではないでしょうか現在我我は普通の速度で会話していますが90%のグリア細胞のうち80%が波動関数を計算しており10%が意識となっているとおもわれるいいですか我我人類が未来をえらべず波動関数のなすがままにしか生きられないこの世界できみだけが世界の分岐をみることができるのならば――〉

 教師はめいもくしてつづけた。

〈きみは一種の神だ〉と。

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