第三話

 ぼくは担当医のふうぼうそくした。

 銀縁眼鏡のうつゆうたる壮年がみえた。

 めいちようたるそくどおりに銀縁眼鏡の内奥に憂鬱なそうぼうを明滅させたろうさい気質かたぎの担当医がほうちやくきつきゆうじよとした一挙手一投足でぼくのびようじよくに肉薄してくる。担当医の発言はそくできたが順序は精緻に分岐していた。担当医はいう。〈ごきげんよう単刀直入に説明させていただきますが貴方あなたは本来なら死んでいました数年前の医療水準ならばね無論現代の医療技術でも無理難題のおおい手術でしたが科學技術の進歩によってきゆうじゆつされたところがすくなからずございますまず自動運転しやりようのAI解析による通報が遅延していたらたすからなかったでしょう現場に救急がほうちやくした貴方あなたは脳髄に甚大な損傷をこうむっており脊椎の一部がそんされていました心臓も機能停止しており一刻の猶予も容赦ならない状況だったのです安心してください我我はまず臓器プリンティングひつきようスマートゲルによる3Dプリント技術により代理の心臓を構築して移植し新三因子法によって製造したiPS細胞によって脊椎を謄写致しました脳髄のがいばかりは最善をつくしたもののじゆつてきそくいんしておりましたが現在のところせきてきに機能しているようですといえどにくたいかいふく次第当病院の精神科にて知能検査をうけてもらいます〉と。きようこうICUでの集中治療が完遂されきゆうきようひやくがいのリハビリテーションをけみしたぼくはくだんの赤十字そうごう病院精神科にて知能検査を甘受した。ばんきんのウェクスラー式で〈ぼくの能力は知能的なしようがいではないのか〉とつゆいささきよくてんせきとして遂行したところへんぽんとして喫驚することとなる。豪放らいらくなる心理療法士が問題をひようぼうするおうに〈すべての解答が理解できた〉のだ。WAISシリーズで検査できる限界は知能指数150までなのでようにして全問正解すればぼくはがいしゆういつしよくでMENSAに入会できる天才とおくそくされただろう。無論全問正解しようともぼくは〈能力〉で解答したのであって実際に知能指数が特異点にほうちやくしていたわけではない。そもそもぼくに知能という概念は無意味だった。〈ぼくは特別な人間になった〉と認識していた。ゆゑにこそろうかいなる病院側やこうかつなる政府機関にかつ視される〈確率〉も計算して三分の一程度はけいかつに誤答した。知能指数97という結果で異常なしとされつつがく退院し自宅に生還すると〈八十五%の確率で〉しゆつこつと号泣した両親に抱擁された。〈やっぱり〉とぼくがいうとなにゆゑか母親がしようじゆする。〈あんたもしかして〉と。翌々日のかくやくたるきゆう窿りゆうの月曜日にいんもうはちがいしようようかつして中途退学した高等学校にちんにゆうするとB棟二階のくだんの物理学教師の担当室にばくしんした。相手からの解答もそくできていたが〈能力はたんなる妄想じゃないのか〉と確認するためにもぼくはいちいちじゆうを物理学教師にでんしなければならなかった。ろうふくれきの教師はほうはつくしけずりながら傾聴してくれた。

 教師はこたえる。

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