第二話

 ぼくの人生の〈分岐〉はしゆうえんするはずだった。はくびようじよくにてもうろくした老婆の最期をかいをみた。るいじやくなる老婆はいった。〈ありがとう――あのときうちにきてくれなかったら――なにもない人生だった――かなしいこともつらいこともくるしいこともあったけれど――この道をふたりであゆんでこられてよかった――あの仔たちにもそういうよ〉と。ぼくがきよして老婆のてのひらを掌握するとかんたんゆめから覚醒した。なにゆゑか〈あのとき告白したのはまちがいじゃなかったながくまがりくねった道だった〉とおもった。ちようゆめざんというよりはせんめいたる〈現実〉としてかんじられる。同時にな感慨におちいった。〈それ以外の無尽蔵の世界が現実として〉かんじられるようになった。ぼくはとうしゆとんとみろうだんする大富豪でありぼくは波動関数のしゆうれんけんさんさんぎようされたノーベル賞物理学者だった。しつかいの〈分岐〉した世界がしやしんの〈多重露光〉のあんばいで体験され半透明の世界の濃淡は〈確率〉を意味しているらしかった。それぞれの現実の可能性も計算できた。年収十億円をりようする可能性は〈その可能性をひんしつする可能性もこうかくしたうえで十二%〉だった。くだんの波動関数の計算によるノーベル賞受賞はひとしなみに〈三%〉ということになる。こんだくする意識のなかでぼくは計算をつづけた。次回のロト6の当選番号は第五桁が四になる可能性が五十四%で五になる可能性が四十六%だった。ひつきようそうほうの組合せの番号を購買すれば百%でたからくじの一等に当選できる。ほんとうか。ぼくはみずからのけんかくしていることのしんぴようせいせんめいすることができなかった。自分はなにをかんがえているのか。ぼくはきようてんしたのだろうか。いんもうの脳髄がしゆんどうする感覚におううつぼつたらしめながらぼくはかいわいはるかした。びようじよくぎようしている。顔面には半透明の呼吸補助器が接続されておりきゆうきようひやくがいにはきゆうていたいりよとなる栄養補給のためのチューブが注射されているほかに無数の極彩色のでんらんてんじようされていた。でんらんそれぞれ心電図や脳波やせんじようばんたいの数値を計測する機関に接続されておりぼくは自分が生きていることをやくやく認識した。いんのほかにもけんらんごうはいきよというふうぼうの一室をへいげいして認識する。ICUらしい。白銀の鉄扉が明滅している入口かいわいに監視カメラらしいAI搭載型カメラを確認したのでぼくはピース・サインをした。カメラの解像度がAIによって調整される動作をする。造次てんぱいもなく筋骨隆隆の看護師が鉄扉を開放して喫驚したがんぼうでぼくの生存を確認した。看護師はくだんのカメラに内蔵されたマイクにむかってほうこうせんとした。ぼくは計算する。八十%の確立で〈先生患者様が目覚めました〉といい二十%の確立で〈先生ICUに御足労ねがいます〉というはずだ。

看護師はした。

〈先生患者様が目覚めました〉と。

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