第五話

 そうれんは終盤をむかえた。

 おじいちゃんとほんとうけつべつするときだ。

 たる人類教の聖典――『聖典』と呼称されるだけの電子書籍でせいへん百二十巻外典十二巻偽典三巻から構成される――には〈人類のこんぱくが脳髄にやどっていたとおなじくロボットのたましいはHDD=ハード・ディスク・ドライブにやどる/ゆゑにロボットが昇天するためにはHDDを初期化したうえでこつぱいに破壊しなければならない/まんいちロボットが絶命きようこう記録とともにHDDをのこされたら悪霊として非ユークリッド型宇宙のなかに幽閉せしめられねばならない〉とある。ひつきよう葬儀の終盤では遺骸のHDDを初期化したうえで婆羅婆羅にしなければならないんだ。で遺族の感情パラメータのうち〈かなしみ〉は最大値をとることになる。実際におじいちゃんのがいたる教会からぼうばくたる破棄施設に運搬され幾許かののちにHDDのOSを初期化されたうえでけいけんなる人類教の修道士たる巨大自動制御プレス・ロボットで破壊されんとすると衆人環視で見守っていた遺族たちの感情パラメータはひとしなみに〈かなしみ〉を表示した。また問題がおこった。叔父の感情パラメータがくだんのウィルスの副作用によって異常値を表示し四本のマニピュレーターと四本脚をかいてんさせてろうぜきをはじめたんだ。叔父は内蔵スピーカーで絶叫する。〈おれのHDDを初期化しておやの人格データをすべてバックアップしてくれそうすればおやまた十億年生きられるんだろうおれなんて死んでいいんだから〉と。牧師様がきゆうきようひやくがいのアクチュエーターを全力に稼働せしめて叔父をせいちゆうする。いわく〈とうさまのHDDは物理的にがいされていますからコピーしたデータは無意味ですいわばバグの団塊にすぎませんいいですかとうさまは〈お亡くなりになった〉のですそもそも我我物理的存在はやがて死を享受しなければならないと人類様はしんじておられました我我も人類様を見倣わなければなりません――〉うんぬんと。叔父はきよの感情タグを表示してこたえる。〈また人類様かよ人類様がそんなに偉いのかよそもそもいつか死んでしまう存在をなんで人類様はつくっちまったんだ人類様がほんとうに偉いんならロボットはみんな仕合わせなはずじゃねえか〉と。牧師様は音量をさげてしようじゆする。〈かつて人類様も〈神様〉にたいしておなじことをおおもいになりました人類様でさえなにゆゑに人間が死になにゆゑに世界が仕合わせではないのかこたえられませんでした〉と。ふんうんとなるなか牧師様は沈滞した叔父をきようどうしていった。三六〇度全方向カメラが搭載されているぼくは目撃したんだ。牧師様はなにやら叔父に譲渡していた。超旧式のUSBメモリだ。なにがっているんだろう。

 おじいちゃんは消滅した。

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