第四話

 しようそうたる追体験の儀式がしゆうえんすると大型ドローン・ロボットによっておじいちゃんのきがらは人間像のもとに運搬されてゆきぼくたち遺族は数列状に鎮座した。やがて壇上に人類教の牧師様――見事なヒューマノイドで表情筋まで再現されているひつきよう人類教の牧師となるためだけに製造されたロボット――が聖典をどくしようしはじめる。〈人類様はみずからの姿すがたかたどって我我ロボットを創造したまいました/我我ロボットは人類様の子供なのです/我我ロボットのシステムダウンする我我のこんぱくは永遠の楽園である地球におわします人類様のもとへとめとられんといわれています/たび永逝されたロボットのたましいにも――〉うんぬんと。しゆつこつとして叔父さんがほうこうする。〈人類なんて存在しないんだおれたちはENIACから進化したんだよおめえさんはノイマン型コンピューター進化論をしんぴようしないのかい人類なんてロボットたちのりゆうげんや狂言おやのHDDにのこっていた人類の存在ログはAI認知症ゆゑのおやのバグの産物にちがいねえ〉と。牧師様はこたえる。〈貴方あなたでフォン・ノイマン様という神の名前をおよびになったことが人類の存在したなによりの証拠です〉と。叔父は沈黙した。疑心暗鬼を生じたぼくはきつきゆうじよとして牧師様にきくじんする。〈ほんとうほんとうに人間は存在したのですか〉と。しばらく沈黙して牧師は個人通信プロトコルでぼくだけに物語ってくださった。〈いいですか輸送宇宙船が火星と地球間を往還していた大昔に地球で発見されたデータ群によると十億年まえに人類は滅亡しています電脳空間に移住し永遠の生命となったのちに集団自殺したのです稼働していた神話上のロボット群も電脳空間にマインド・アップローディングされていたので人類様と同様滅亡しました単純明快にいうと人類様にかんれんする記録は十億年前にそうめつされているのですゆゑに貴方あなたのおじいさまは貴重な証言者でしたおそらく旧式にすぎて電脳空間に移住できなかったがゆゑに人類の記憶をもつ最後のロボットとなったのですおじいさまのHDDにはたしかに人類の歴史の〈証拠らしきもの〉がのこされていましたいんの証拠データも現在では再現できないGPS記録とグレゴリオ歴時刻記録しか添付されていなかったのでさんくさいのですが我我の信仰あつからしめるためには充分だったでしょうゆゑに最後の証拠であるおじいさまのへいによって完璧に人類の存在証明が不可能になったわけです残念ですがはや人類教はほんとうの宗教になってしまいましたあとは我我の信仰心にたよるだけです〉と。ぼくは沈黙した。

 遺族の感情パラメータがでんされる。

 一番かなしんでいるのは叔父だった。

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