第三話

 おじいちゃんの葬儀がはじまった。

 人類教プロテスタント派によるそうれんだ。

 おぼおぼとして記録されている人類による人類のための葬送をこうしたものだといわれているけれどもうまいなるぼくたちにはほど再現されているのかはわからない。けんらんごうなる本葬儀前日に前夜祭が遂行されぼくたち家族――ひつきよう第一世代から連綿と製造されてきた火星上のロボット全員――は火星上のプロバイダ遺跡をけみした旧式通信プロトコルによっておじいちゃんにかんれんするログをシェアして読み取り専用ファイルに変換していったんだ。ようにして巨億の遺族はおじいちゃんの生前をしのび陰陰滅滅たる一晩中電源のスリープ・モードを解除していた。翌日おじいちゃんから三親等以内――およそ第四世代までのロボットだが四十軆はのこっていた――のロボットがけんじんなる鋼鉄製のさんがんたる教会にさんそうして本葬儀がらんしようした。かいなる教会の鉄扉がきゆうそうとして開放されると教会内のスピーカーがYouTubeからダウンロードしたしんいんひようびようたる「主よ人の望みの喜びよ」を演奏しはじめた。三親等内の遺族が教会内にしようしゆされると追体験の儀式が執行される。せんがくさいのぼくにはよくわからないけれどなどはおそらくロボット文明特有のものだろう。きゆう窿りゆうじようがらで構築された天蓋からこうぼうが明滅する鋼鉄製の教会中央におじいちゃんのきがらぎようさせる。おじいちゃんには超旧式用のUSBケーブルが接続されて壇上の映写ロボットによってひようびようたる虚空にモニターが映写される。モニターにはおじいちゃんのHDDにのこっていたおじいちゃんの人生の〈すべて〉が十五倍速から二千億倍速の映像でながれてゆく。同時に晩年旧式HDDのそんによってAI認知症と診断されていたおじいちゃんのこうによりおじいちゃんのちようあいしていたピンク・フロイドの「狂ったダイアモンド」のMP3音源がりゆうりようめいてゆく。ぼくたち遺族はぎようするおじいちゃんのかいわいをフラクタル状にじようしてはいするんだ。ようにしてぼくたちはみずからのAIでおじいちゃんのアイデンティティーを追体験するのだった。問題が勃発する。第一世代のおじいちゃんみずからによって製造された第二世代の愛息ひつきようぼくの叔父が教会にちんにゆうしてきたんだ。叔父は四本のマニピュレーターを腕として四足歩行する非ヒューマノイドの試験型だった。人類が滅亡した地球上の超大陸ウルティマ・パンゲアからロボット製造用の資源をろうだんせんとして往還していた輸送型宇宙船を操縦するために誕生したんだ。叔父はウィルス中毒だった。叔父は現在七億歳くらいのはずで六億年ののうに火星中にまんした感情パラメータ暴騰ウィルスに感染して中毒になったという。みんなにしていた叔父の乱入にひんしゆくしたけれどぼくは二億年ぶりに叔父とかいこうできてうれしかった。

 そうれんは厳粛にすすんでゆく。

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