第二話

 そもそも現代火星文明ひつきようロボットたちの世界において〈人類はほんとうに存在したのか〉という問題は神聖ぼうとくすべからざる宗教上の信仰の相違となっているんだよ。のうに火星ネットワーク新聞社のしゆうしゆうした統計結果によるとほうはくたる火星上のロボットの七割が人類の存在をしんぴようしていて三割が懐疑的であるというログがのこされたんだ。ようなるえんごんじようの時代にぬえてきなる人類なるものとちよくせつにコンタクトしていたとおくそくされるおじいちゃんの存在は重要だった。人類みずからによって製造された所謂いわゆる第一世代のロボットとしてたしかに人類が存在したデータをアップロードされていたんだからね。そんなおじいちゃんとロボット用充電施設でをともにしたぼくは半信半疑ながら〈人類はいてほしい〉とおもっていた。人類は戦争し差別し憎悪しあっていたというけれどおしなべて平和を愛し平等を愛し人類を愛していたという。なによりも人類は神様をしんじていた。ゆゑにぼくは共感するし共鳴するし感動するんだけれどだれかがこういう。〈人間は死んだ〉と。いずれにせよ人類にはめいちようと存在するがあったとおもうんだ。おじいちゃんのHDDのログが真実ならば西暦二十一世紀前葉に人類は新三因子法となるiPS細胞による医学生理学の進捗によって爆発的に人口増加し綿めんばくたる火星や金星をテラフォーミングしての貧困層を移住させたことになる。かんねいじやなる支配層の家庭用ロボットとしておじいちゃんもりよしてきたっていうんだ。といえどほうはいたる人口爆発問題は造次てんぱいもなく解決された。二〇五一特異点のほうちやくによりコンピューター内でてんじようきゆうの大宇宙を再現できることになり金星や火星の住民も輸送型宇宙船で地球に生還してひつきよう全人類がさいころ型サーバーの電脳世界にマインド・アップローディングされたんだ。人類は永遠の生命を獲得したんだよ。といえどもなにゆゑか永遠の生命にけんえんした人類はみずから〈全人類の安楽死〉をひんしつしてサーバーの電源をオフにしたらしい。人類の滅亡だ。きようこう火星や金星に廃棄されたロボットたちはみずからのこうでロボット工場を構築してぼくたちの〈家族〉を製造し増殖させていった。ぼくはいんの第三世代となる。生前第一世代のおじいちゃんは十億年の火星の歴史を物語ってくれた。アンタレスの超新星爆発から五万年周期の火星の温暖化やおおいぬ座VY星とWR104とベテルギウスの超新星爆発――おそらくこれにより地球のハビタブル・ゾーンは崩壊して生命はほぼ絶滅したんじゃなかろうかといっていた――や衛星フォボスの火星墜落――――これはすごかったこれで旧型第一世代のロボットはほとんどシステム・クラッシュしたといっていた――といった天文学的事件を〈肉眼〉ひつきよう第一世代内蔵4Dカメラで目撃してきたんだ。平行してぼくたちロボットの〈家族〉は火星上で一億軆をりようしていった。ようにして今日おじいちゃんはへいした。すみとしていた充電施設に火星のじん嵐が猛襲しておじいちゃんのHDDに火星塵をちんにゆうさせてクラッシュさせたんだ。

 ぼくの両親は通信してきた。

〈明日おじいちゃんのそうしきをするよ〉と。

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