沈林子5 建康防衛戦   

盧循ろじゅん建康けんこう防衛戦のときのこと。


劉裕りゅうゆう様が石頭せきとう城で軍の再編をなされた時、

祖父は別動隊を拝領いたしました。

彼らを率い、しばしば盧循軍を撃退。


なかなか戦果が上がらぬことに

業を煮やした盧循は、一計を案じます。

建康城の北、白石はくせきと言う地に

軍勢を集めて上陸するよう

喧伝し始めたのです。

その一方で、建康南部には伏兵を。


この陽動作戦は巧みなものでした。

劉裕様すら、

釣り出されてしまったのです。


しかし劉裕様は、一方では石頭城に

祖父、および徐赤特じょせきとくと言う将軍を配備。

查浦さほと言う河港を守るよう、

仰せになりました。


祖父は劉裕様に進言いたします。


「これは陽動作戦かもしれません。

 重々、お気を付けください」


これに対し、劉裕様は仰いました。


「石頭城の守りは固く、

 秦淮河しんわいがに巡らせた柵も万全。


 そこに、お前がいる。

 それなら、十分守れるだろうさ」


そうして劉裕様の軍が北部に向かうと、

たちまち五斗米道ごとべいどう軍が侵攻を開始。


この動きに対し、

徐赤特は迎撃を主張致しました。

無論、祖父は反対致します。


「あれほど白石に行く、と

 騒ぎ立てていたやつらが、

 こうして攻め寄せてきているのです。

 そこから敵の内情は察せられよう、

 というもの。


 五斗米道軍の本命は、

 やはりこちらなのです。


 となれば敵軍の精鋭が、

 手ぐすねを引いて好機を

 待ち受けていることでしょう。


 しかるにこちらの軍勢は

 二万にも届きません。

 この状態で敵軍の殲滅は至難である、

 と言うべきでしょう。


 しかし、劉裕様も仰ったがごとく、

 石頭、秦淮河の防備を活用すれば、

 十分に防ぎきれます。


 敵の陽動作戦も失敗に終わり、

 劉裕様の軍も戻って参りましょう。


 あたら迎撃などせず、

 専守防衛をしておればよいのです」


徐赤特は反論致しました。


「それは違う。

 奴らの主力は白石に向かった。

 ならばここにいる賊軍は、

 病人老人で編成された、

 こけおどしの軍に違いない。


 ならば我らの武力で攻めれば、

 迎撃できぬはずもない」


こうして出陣した徐赤特軍。

すると、予想通りと申しましょうか。

五斗米道軍の伏兵に迎え討たれ、

散々な結果に。


徐赤特は兵らを捨て北に逃亡。

故に祖父もやむなく出陣し、

徐赤特軍の敗残兵たちを

収容して回ります。


ここに機を見たのが、

五斗米道軍の徐道覆じょどうふくでした。

改めて精鋭たちを上陸させ、堤防沿い、

一キロメートル近くにわたって展開。


敵軍を見て、

祖父は配下たちに申しました。


「奴らは広く展開している。

 ならば我々が直面する敵軍は、

 実質一隊にすぎない。


 我々は渡河地点さえ抑えてしまえばいい。

 そうすれば奴らは、そこを奪取せぬ限り、

 東には攻め入れんのだ」


そうして先に渡河地点を押さえ、

防衛戦を展開いたしました。


祖父がこうして時間稼ぎをしている間に、

朱齢石しゅれいせき様が軍を率い、

加勢に駆けつけられました。


徐道覆は、渡河地点の奪取が

難しくなったと判断。兵を引きます。


その後劉裕様が白石から戻って来られると、

軽挙をなした徐赤特を処刑。

見せしめとしました。


また祖父を

劉裕様直属の幹部として迎えられました。




林子時領別軍於石頭,屢戰摧寇。循毎戰無功,乃僞揚聲當悉衆於白石步上,而設伏於南岸,故大軍初起白石,留林子與徐赤特斷拒查浦。林子乃進計曰:「此言妖詐,未必有實,宜深爲之防。」高祖曰:「石頭城險,且淮柵甚固,留卿在後,足以守之。」大軍既去,賊果上,赤特將擊之。林子曰:「賊聲往白石,而屢來挑戰,其情狀可知矣。賊養鋭待期,而吾衆不盈二旅,難以有功。今距守此險,足以自固。若賊僞計不立,大軍尋反,君何患焉?」赤特曰:「今賊悉衆向白石,留者必皆羸老,以鋭卒擊之,無不破也。」便鼓噪而出,賊伏兵齊發,赤特軍果敗,棄軍奔北岸;林子率軍收赤特散兵,進戰,摧破之。徐道覆乃更上鋭卒,沿塘數里。林子策之曰:「賊沿塘結陣,戰者不過一隊。今我據其津而厄其要,彼雖鋭師數里,不敢過而東必也。」於是乃斷塘而鬥。久之,會朱齡石救至,與林子竝勢,賊乃散走。大軍至自白石,殺赤特以殉,以林子參中軍軍事。


林子は時に別軍を石頭にて領し、屢しば戰い寇を摧る。循は戰の毎に功無くらば、乃ち僞りて聲を當に衆を悉く白石に步上せんと揚げ、而して伏を南岸に設くらば、故に大軍は初に白石に起ち、林子と徐赤特を留め查浦を斷拒せしめんとす。林子は乃ち計を進めて曰く:「此れ妖詐と言うべし、未だ必ずや實有りたらず、宜しく深め之が爲に防ぎたるべし」と。高祖は曰く:「石頭城は險にして、且つ淮の柵は甚だ固し、卿を留め後に在らしむらば、以て之を守るに足らん」と。大軍の既にして去りたるに、賊は果して上り、赤特は將に之を擊たんとす。林子は曰く:「賊が聲は白石に往かんとせど、屢しば來たりて戰を挑みたり,其の情狀を知りたるべきなり。賊は鋭を養い期を待てど、吾が衆は二旅に盈たずば、以て功有すに難し。今。此の險を距守さば、以て自ら固むに足る。若し賊の僞計の立たざらば、大軍は尋いで反らん。君は何ぞを患らわんか?」と。赤特は曰く:「今、賊の悉くは白石に向いたり、留むる者は必ずや皆な羸老なり、鋭卒を以て之を擊たば、破らざる無きなり」と。便ち鼓噪し出づらば、賊の伏兵は齊な發し、赤特が軍は果して敗れ、軍を棄て北岸に奔る。林子は軍を率い赤特が散兵を收め、進み戰いて之を摧破す。徐道覆は乃ち更に鋭卒を上げ、塘に沿うこと數里なり。林子は之に策して曰く:「賊は塘に沿い陣を結ばば、戰いたるは一隊に過ぎず。今、我れ其の津に據し、其の要を厄し、彼の鋭師は數里と雖も、敢えて過らず東せるは必なり」と。是に於いて乃ち塘を斷じ鬥う。之に久しうし、朱齡石の救の至るに會い、林子と勢を竝ばば、賊は乃ち散走す。大軍は白石より至り、赤特を殺し以て殉とし、林子を以て中軍軍事に參ぜしむ。

(宋書100-12_暁壮)




ヒント:結果からの逆算


なんか趙雲別伝読まされてる気分になってきた。

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