謝晦9  なお迷い、惑う 

徐羨之じょせんしらが殺される、426 年の正月。

謝晦しゃかいの弟、謝皭しゃしゃくが使者を送る。

いわく「やべぇよ兄貴、マジやべぇ!」。

が、謝晦。一笑に付す。


謝晦、側近の何承天かしょうてんに、

傅亮ふりょうからもらった手紙を読ませた。


「傅亮様はまた、ずいぶんと

 思い煩っておられるようだな?


 なぁに、萬幼宗ばんようそうも、

 明日か明後日には来るだろうよ。


 おれが荊州けいしゅうでよろしくしてることが、

 あの方は気に食わんようだな」


 太平楽な謝晦に対し、

 何承天は言う。


「ちまたでは、誰もが陛下の西府討伐を

 規定事項であるかのよう語っている、

 と聞いております。


 ならば萬幼宗が、どうしてわざわざ

 長江を遡ってくるでしょうか?」


あー、わかったわかった、

この心配性☆ さんめ☆


謝晦、何承天の懸念には取り合わず、

劉義隆りゅうぎりゅうの「ワイ北伐したい!」という

表明に応えるための手紙を、

何承天に書かせた。


いえーい陛下!

来年! 来年ぶちかましましょう!


とか、そんな感じだ。


が、そこに水を差す、一通の手紙。

差出人は程道恵ていどうけい

バリバリの徐羨之じょせんしシンパである。


その手紙にいう。


尋陽じんようで、情報を掴みました。

 陛下が謝晦様を始めとした皆さまを

 殺し尽くしたい、と

 お考えでいらっしゃるのは、確定です」


その手紙を持ってきたのは、樂冏がくけい

程道恵の側近である。

そして、かれが持ってきた手紙に

押し付けられてあった封印は、

確かに、程道恵のものだ。


だが、それでも謝晦は、言う。


「ま、まだ萬幼宗は来ていない。

 あ、あと二、三日のうちに来なければ、

 そこで初めて、

 態度を確定すればよいのではないか?」


はぁ。

バカかよこいつ。


そんな思いは一切おくびにも出さず、

何承天は言う。


「謝晦様、よくよくご検討ください。

 陛下が敢えて謝晦様に、

 諮問の使者を送る理由は、

 ほぼ、ありません。


 事態はすでに、程道恵殿が

 ご指摘なさった通りの流れ。


 今更かれを疑ったところで、

 なんのメリットがあるのでしょうか?」




三年正月,晦弟黃門侍郎皭馳使告晦,晦猶謂不然,呼諮議參軍何承天,示以亮書,曰:「計幼宗一二日必至,傅公慮我好事,故先遣此書。」承天曰:「外間所聞,咸謂西討已定,幼宗豈有上理。」晦尚謂虛妄,使承天豫立答詔啟草,伐虜宜須明年。江夏內史程道惠得尋陽人書,言:「朝廷將有大處分,其事已審。」使其輔國府中兵參軍樂冏封以示晦。晦又謂承天曰:「幼宗尚未至,若復二三日無消息,便是不復來邪?」承天答曰:「詔使本無來理,如程所說,其事已判,豈容復疑。」


三年の正月、晦の弟の黃門侍郎の皭は使を馳せ晦に告がしめ、晦は猶お然らざりたりと謂え、諮議參軍の何承天を呼び、以て亮が書を示し、曰く:「計るに幼宗は一、二日にして必ずや至らん、傅公は我が好事を慮り、故に先に此の書を遣わしたり」と。承天は曰く:「外間に聞きたる所、咸な西討の已に定まりたるを謂いたり、幼宗に豈に上理有らんや?」と。晦は尚お虛妄と謂い、承天をして答詔が啟草を豫立せしめ、虜を伐たんと宜しく明年に須めんとす。江夏內史の程道惠は尋陽人が書を得、言えらく:「朝廷に將に大處分有らん、其の事は已に審らかなり」と。其の輔國府中兵參軍の樂冏は封を以て晦に示す。晦は又た承天に謂いて曰く:「幼宗の尚お未だ至らざるに、若し復た二、三日の消息無くば、便ち是れ復た來たらざらんや?」と。承天は答えて曰く:「詔使に本より來たる理無し、程の說きたる所の如きなれば、其の事已にして判ぜられん、豈に復た疑いたるを容れんや?」と。

(宋書44-9_紕漏)

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