謝晦6  荀羡と較ばる  

謝晦しゃかい荊州けいしゅう刺史となり、

江陵こうりょうに赴任する直前のことだ。


俺みたいな若造の身の上で

西府軍のボスだぜ、あの西府軍の!

謝晦、ちょう鼻高々。


その雰囲気を隠しもせず、

当時の謝氏の重鎮であった

謝澹しゃせんのもとへ、

別れを告げる挨拶に向かった。


謝澹、謝晦のちょづいた様子を見て、

ふと訊ねた。


「お前、いくつになった?」


「35です!」


それを聞き、謝澹は笑う。


「なんだ、年増じゃないか。

 東晋とうしんの時代、荀羡じゅんせん様は27で

 北府軍の総帥にお就きになったぞ」


ピャッ!


この返しに、謝晦、縮こまりあがった。




初為荊州,甚有自矜之色,將之鎮,詣從叔光祿大夫澹別。澹問晦年,晦答曰:「三十五。」澹笑曰:「昔荀中郎年二十七為北府都督,卿比之,已為老矣。」晦有愧色。


初にして荊州と為りたるに、甚だ自矜の色を有し、將に鎮に之かんとせるに、從叔の光祿大夫の澹に詣で別る。澹は晦が年を問わば、晦は答えて曰く:「三十五」と。澹は笑いて曰く:「昔、荀中郎は年二十七にして北府が都督と為らん。卿は之に比べ、已にして老為いたるを為したり」と。晦に愧づる色有り。

(宋書44-6_品藻)




謝澹

謝安しゃあんの孫。

謝晦から見ると七親等となり、

だいぶ遠い。一応書いておくと

 謝裒しゃぼう謝拠しゃきょ謝朗しゃろう謝重しゃちょう→謝晦

  └→謝安→谢瑶しゃよう→謝澹

というつながりだ。


荀羡

桓温かんおんが突き抜けすぎているために目立たないのだが、この人も東晋とうしんが誇る屈指の名将の一人。前燕ぜんえんの勇将である賈堅かけんを倒すなどの武勲がある。しかし今調べてみると荀羡が任じられているのは監徐兗二州揚州之晉陵諸軍事であり、名目上の軍務としては謝晦のほうが高い(都督制は都督→督→監という順のグレード)。いやまぁ軍事的責務と言う意味では、どう考えても荀羡のほうが凄まじいんですけど。

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