高進之1 見通す目    

檀道済だんどうさい配下将 高進之こうしんし 全5編

 既出:檀道済6



436 年、劉義隆りゅうぎりゅうは、檀道済のほか、

かれの配下将の高進之と薛彤せっとうを殺した。


彼らのうち、高進之は、

何故か三十國春秋さんじゅっこくしゅんじゅうと言う書に伝が残る。

そこで、かれのことも紹介しておこう。



高進之は沛國はいこくの人だ。

父は高瓉こうさん、殴り合いをはじめとした

武勇に秀でていた。


かつて高瓉、友人の葬式に出席したあと、

いざ帰ろう、としたところで、

友人の妻が土着の人びとに

さらわれそうになった。


そこで高瓉、

この無法に立ちはだかり、七人を殺す。

だが、この騒ぎの中にあり、

友人の妻の首がはねられてしまう。


こうしてお尋ね者となってしまった高瓉、

妻子を置いてのエリアに亡命。


また高進之が13の時に、

母の劉氏も死んでしまう。


天涯孤独の身となってしまった高進之、

行方不明の父親を捜し駆けずり回るも、

結局探し出せない。


こうなってしまっては、

自力で生き延びるしかない。

おれのこの能力を生かせば、

きっとどうにかなる。


そう決意し、向かったところは、

何と、鎮北ちんほく将軍。劉牢之りゅうろうし

当時のトップ将軍さまである。

どんな肝っ玉だ。


高進之が劉牢之のもとに赴いた時、

ちょうど宴会が開かれていた。

すると高進之、堂々と宴会会場に踏み入り、

椅子に座ると、大いに飲み食いをした。


なんだこのガキ。

みなさん、そりゃ驚く。


この闖入者に、しかし劉牢之、

最低限の礼儀は忘れない。

自分から彼に挨拶をすると、聞く。


「貴様は何に長けている?」


高進之は答える。


「物資から展開できうる軍事行動について

 たちどころに算出してみせましょう」


ほほう、面白い。劉牢之は部下に

武器防具、糧秣の在庫を問う。

それを聞いた高進之、すぐさま計算。

その見立ては、府内の計算と合致した。


そこで劉牢之、

高進之を行軍司馬に取り立てた。


が、五日で退職。


高進之は言っている。


「劉牢之様は猜疑心が強いうえ、

 忍耐に欠けておられる。


 一度上の者を怨めば、

 すぐにでも謀叛をされるだろう。


 あのようなお方のもとに

 いつまでも仕えておれば、

 ろくでもない目に遭うだろうよ」




宋文帝元嘉十三年,殺檀道済及其参軍高進之与薛彤。高進之沛國人。父瓉,有拳勇,嘗送友人之喪,喪反,友妻為土宦所掠,瓉救之,殺七人,而友妻亦刎頸死,遂亡命江湖。進之生十三年,母劉死,葬畢,走四方,求父不得,迺謁徵北將軍劉牢之。牢之高會,進之入幕,推上客而踞其坐,大飲嚼,一坐大驚。牢之揖客,問所長,進之曰:「善以計數中密事。」牢之問部下甲兵芻糧,進之佈指算,不爽,迺闢行軍司馬。居五日,進之曰:「劉公猜而不忍,怨而好叛,不去,必及禍。」遂去之。


宋文帝は元嘉十三年、檀道済、及び其の参軍の高進之と薛彤を殺す。高進之は沛國の人なり。父は瓉、拳勇有り、嘗て友人を喪に送り、喪より反りたるに、友が妻は土宦に掠さる所と為らば、瓉は之を救い、七人を殺せど、友が妻は亦た頸を刎ねられ死さば、遂に江湖に亡命す。進之の生まるるに年は十三、母の劉が死に、葬を畢えらば、四方に走れど、父を求めど得ず、迺いで徵北將軍の劉牢之に謁す。牢之は高會し、進之の入幕せるに、上客に推せど其の坐に踞し、大いに飲嚼し、一坐は大いに驚く。牢之は客に揖し、長ずる所を問わば、進之は曰く:「以て中密なる事の數を計うに善し」と。牢之は部下に甲兵芻糧を問い、進之は佈く指し算ずらば、爽わず、迺ち行軍司馬に闢さる。居ること五日、進之は曰く:「劉公は猜にして忍ばず、怨まば叛さるを好まん。去らずんば、必ずや禍、及ばん」と。遂に之より去る。

(三十國-1_識鑒)




これ、母親の劉氏が劉牢之の親族だった、という事になりますでしょうかね。さすがに、いくらなんでもツテなしでこんなことやったら問答無用で殺されるだろうし。けどその辺をリンクさせてくれる史料は存在しない。うーん、きつい。


ともあれ高進之伝を見ると、あの檀道済すら結構な小者として描かれているのが面白い。たぶんこれ、高氏に代々伝わる家伝みたいなものからの取材なんでしょうね。いいなぁ、そう言うの一杯残ってくれてたら最高なんだけどなあ。

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