檀道済5 誅滅劇と檀道済 

檀道済だんどうさい王弘おうこうと交友関係にあった。

劉義符りゅうぎふ廃立後の不安定な宮廷にあって、

その関係性を益々深める。


徐羨之じょせんしらとの対立があるごとに、

王弘は常に檀道済を支持した。


そして劉義隆りゅうぎりゅうが、ついに徐羨之らの

誅滅謀議を発動。檀道済への命令は、

荊州けいしゅう謝晦しゃかいを討て、である。


劉義隆のこの命令に、王華おうかが反対した。

奴にいま軍権を持たせたらどうなるか、

それを懸念したのだ。


劉義隆は言う。


「あれは自発的に動ける男ではない。

 兄上の廃位殺害にしてみても、

 あれのはかりごとではないしな。


 ならば抱き込み、使うのが良い。

 なに、そなたが恐れるような

 ことにはならんよ」


蓋を開けてみれば、檀道済、

素直に劉義隆の指示に従うではないか。

徐羨之誅滅の障害はなくなった。


劉義隆、速やかに徐、両名を処断。


また謝晦討伐のための軍を

到彦之とうげんしとともに編成させたあと、

その作戦を、檀道済に諮った。


檀道済は答える。


「謝晦とともに後秦こうしん討伐に赴きましたが、

 長安ちょうあんに至るまでの策略は、

 九割がたが謝晦の提案でした。


 あれは、敵には回したくありません。


 しかしながら、あれ自身が軍を率い、

 敵を撃滅したことはありません。

 おそらく、戦略はともかく、

 戦術には疎いことでしょう。


 愚臣は知略で謝晦に劣れど、

 謝晦は勇武で愚臣に劣ります。


 勅命を奉り、愚臣が参れば、

 あれは戦わずして瓦解致しましょう」


こうして檀道済、出発。


一方の、謝晦である。

かれは檀道済が徐羨之と共に

殺されるものと思っていた。


ところが、その檀道済がやって来る。


えっちょ、ムリムリムリムリ!

たちまち謝晦軍、崩壊するのだった。




道濟素與王弘善,時被遇方深,道濟彌相結附,每構羨之等,弘亦雅仗之。上將誅徐羨之等,召道濟欲使西討。王華曰:「不可。」上曰:「道濟從人者也,曩非創謀,撫而使之,必將無慮。」道濟至之明日,上誅羨之、亮。既而使道濟與中領軍到彥之前驅西伐,上問策於道濟。對曰:「臣昔與謝晦同從北征,入關十策,晦有其九。才略明練,殆難與敵;然未嘗孤軍決勝,戎事恐非其長。臣悉晦智,晦悉臣勇。今奉王命外討,必未陣而禽。」時晦本謂道濟與羨之同誅,忽聞來上,遂不戰自潰。


道濟は素より王弘と善く、時に方に深きに遇さるを被らんとせるに、道濟は彌いよ相い結附し、每に羨之らと構えたらば、弘は亦た之を雅仗す。上の將に徐羨之らを誅せんとせるに、道濟を召じ西討せしめんと欲す。王華は曰く:「不可」と。上は曰く:「道濟は人に從いたる者なり、曩しく謀を創じたるに非ざれば、撫して之を使わば、必ずや將た慮れ無からん」と。道濟は之に明くる日に至らば、上は羨之、亮を誅す。既にして道濟をして中領軍の到彥之と西伐に前驅せしめ、上は策を道濟に問う。對えて曰く:「臣は昔に謝晦と北征に從いたるを同じうせば、關に入りたる十策、晦が其の九を有す。才略は明練、殆ぼ敵するに難し。然れど、未だ嘗て孤軍にて勝を決めざらば、戎事は恐らく其の長ずるに非ず。臣は晦が智に悉くされど、晦は臣が勇に悉くされん。今、王命を奉じ外討せば、必ずや未だ陣せずして禽えたらん」と。時にして晦は本と道濟と羨之の誅を同じうさると謂えど、忽ち來上せるを聞き、遂には戰わずして自潰す。

(南史15-6_仇隟)




これを見ると劉義隆、ベットを張る度胸と、張るまでに積み上げておくべき人為の部分を固め切っておくことまではきっちり成し遂げるんだろうなぁって印象になった。武帝の息子として素晴らしい才覚の持ち主ですね。なにせこのときまだ二十一だぜ。司馬元顕しばげんけんもびっくりだ。


ただ惜しむらくは、実戦経験そのものの圧倒的不足、ってことになるんでしょうね。特に文化圏が違う相手に対しての。劉義符即位時の北魏ほくぎ侵攻、どんな気持ちで眺めてたんだろうなあ。

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