傅亮3  天文を仰ぐ   

傅亮ふりょう後秦こうしん討伐に従軍し、

また劉裕りゅうゆうに従って彭城ほうじょうに戻った。


彭城に到着したところで、

劉裕の官位が王に引き上げられた。

そう国の誕生だ。

そこで傅亮、劉義符りゅうぎふの指南役となった。


こののち、劉裕とともに壽陽じゅように移動。

劉裕としてもそろそろ簒奪をなそうかと

考え始めていたのだが、

なかなかそのことを口には出せない。


そこで、宴会の場にかこつけて、

ちらりと漏らしてみた。


「いちど桓玄かんげんの野郎のせいで、

 天命はしんから離れた。


 が、なんとか俺の声上げで

 晋の命運は復活した。


 南北の領土は回復し、

 いまや天下が、再び晋に収まった。


 俺自身の働きもすっかり認められ、

 遂には九錫きゅうしゃくを得るまでになった。


 そろそろ、今年もくれる。

 俺のもとには数多の尊敬や、

 物資が集まるようになったが、

 正直なところ、どうにも

 ゆっくりした気分にはなれねえ。


 そろそろ爵位を返上し、

 建康・・でゆっくりしてえと思うんが、

 どうだろうな?」


えっ建康? 京口けいこうじゃなくて?


劉裕がそんなヒントを

出していたにもかかわらず、

いやいや、劉裕様ヤバいですって!

よろしく、臣下たちは、

劉裕をしきりに褒め称える。

もちろん、傅亮も一旦は一緒だった。


が、夕方遅く。

宴会が解散してから、傅亮。

ふと思い返すのだ。

本当に、引退のほのめかしだったのか?


そこから劉裕の発言をたどり、

ついには傅亮、劉裕の含意に気づく。


宋王は、禅譲ぜんじょうの議を進めたいのだ!


慌てて傅亮、劉裕の館に戻るも、

既にその門戸は固く閉ざされている。

しかし、構ってはいられない。

激しく門戸を叩き、接見を乞う。


傅亮の様子を聞き、劉裕、

門戸の鍵を開け、館内に通す。


もはや、余計なことは言わない。

傅亮、開口一番に語る。


「このあたりで一度、

 私は都に還るべきと思いました」


都に? ――ほほう、どうやら傅亮、

劉裕の真意に気づいたようだ。


なので、言う。


「見送りには何人要る?」


「数十人おれば間に合いましょう」


この後、すぐさま傅亮は

劉裕の意図を代筆し、

健康に向かうこととなった。


外に出れば、既に夜も暮れている。

その視界に、流れ星が横切った。


それを見て傅亮、興奮のあまり、

自らの太腿を、ばしんと叩く。


「おれは今まで、天命など

 信じたことがなかった。


 だが、なるほど。

 こういうことを言うんだな!」


こうして建康に赴いた傅亮は、

劉裕の名代として、禅譲儀式の

準備に取り掛かるのだった。




亮從征關、洛,還至彭城。宋國初建,令書除侍中,領世子中庶子。徙中書令,領中庶子如故。從還壽陽。高祖有受禪意,而難於發言,乃集朝臣宴飲,從容言曰:「桓玄暴篡,鼎命已移,我首唱大義,復興皇室,南征北伐,平定四海,功成業著,遂荷九錫。今年將衰暮,崇極如此,物戒盛滿,非可久安。今欲奉還爵位,歸老京師。」群臣唯盛稱功德,莫曉此意。日晚坐散,亮還外,乃悟旨,而宮門已閉;亮於是叩扉請見,高祖即開門見之。亮入便曰:「臣暫宜還都。」高祖達解此意,無復他言,直云:「須幾人自送?」亮曰:「須數十人便足。」於是即便奉辭。亮既出,已夜,見長星竟天。亮拊髀曰:「我常不信天文,今始驗矣!」至都,即徵高祖入輔。


亮は關、洛を征すに從い、還じ彭城に至る。宋國の初めて建つるに、書にて侍中に除せられ、世子中庶子を領せらる。中書令に徙るも、中庶子を領せらるは故の如し。從いて壽陽に還る。高祖に受禪の意は有れど、發せるにては難を言い、乃ち朝臣を集め宴飲せるに、從容と言いて曰く:「桓玄の暴篡にて、鼎命は已に移りたり。我れ首として大義を唱え、復び皇室を興し、南征北伐し、四海を平定し、功成り業は著しく、遂には九錫を荷す。今年の將に衰暮せんとせるに、崇極なるは此くの如し、物戒は盛滿せど、久しく安んずべかるに非ず。今、爵位を奉還し、京師に歸老せんことを欲す」と。群臣は唯だ盛んに功德を稱うるのみにて、此の意を曉らかとせるもの莫し。日晚にて坐は散じ、亮は外に還らば、乃ち旨を悟れど、宮門は已に閉づ。亮は是に於いて扉を叩き見ゆるを請い、高祖は即ち開門し之に見ゆ。亮は入りて便ち曰く:「臣は暫し宜しく都に還りたるべし」と。高祖は此の意を達解し、復た他言無く、直ちに云えらく:「幾人にて自ら送らんと須めんか?」と。亮は曰く:「數十人を須まば便ち足る」と。是に於いて即便に辭を奉ず。亮の既に出でたるに、已にして夜なれば、長星の天に竟るを見る。亮は拊髀して曰く:「我、常には天文を信じざるも、今、始めて驗す!」と。都に至り、即ち高祖が入輔を徴す。

(宋書43-14_言語)

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