徐羨之5 宰相の風    

徐羨之じょせんしは中級官吏から立身した。

特筆すべき教養もなかったが、

その確かな意志、度量でもって、

遂には国の政策にまで参与し、

朝廷の人間たちより敬服を受けた。


まさに官臣を率いるべき器である、と。


思考は冷静にして緻密、

それでいて雄弁になることもなく、

めったに喜怒哀楽も表には出さない。


また囲碁を得意としていた。

彼の指し筋は、非常に複雑怪奇。

きっと彼の思考は、この二倍は

すごいのだろう、と囁かれていた。


傅亮ふりょう蔡廓さいかくは常に言っていた。


「徐羨之様は何事にも通暁している。

 あらゆる意見の衝突を、

 たちどころに収めてしまうのだ」




羨之起布衣,又無術學,直以志力局度,一旦居廊廟,朝野推服,咸謂有宰臣之望。沈密寡言,不以憂喜見色。頗工弈棊,觀戲常若未解,當世倍以此推之。傅亮、蔡廓常言:「徐公曉萬事,安異同。」


羨之は布衣に起ち、又た術學無かりせど、直だ志力局度を以て、一旦にして廊廟に居し、朝野は推服し、咸な宰臣の望を有すと謂う。沈密にして言寡なく、以て憂喜を色に見せず。頗る弈棊を工みとし、戲るを觀るに常に未だ解さざるが若きなれば、當世は此の倍なるを以て之を推す。傅亮、蔡廓は常に言えらく:「徐公は萬事に曉るく、異同を安んず」と。

(宋書43-5_賞誉)




蔡廓

劉宋文官の代表格。三国志の、あの文人代表たる蔡邕さいようさんの同族である。そして東晋のあの名物宰相(※ごく一部のクラスタに限る)、蔡謨さいもさんのひ孫。デイリー晋宋春秋は、割とこの辺のひとを深堀したいから始めたようなところがある。

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