劉穆之5 ラブ甚だしい  

南燕なんえん制圧、盧循ろじゅん撃退における参謀として、

劉穆之りゅうぼくしは常に劉裕りゅうゆうのそばにあった。

多くの策略について提唱し、

かつ諸事務を処理していく。


劉毅りゅうきらは、劉穆之が劉裕の側で

多くの提言をし、また、

それが受け入れられることで、

その発言力が大きくなっていくことに

危惧を覚えた。

そして、どうにか離間できないものかと

画策したようだが、結局は劉裕の、

劉穆之への信頼を厚くさせるだけだった。


劉穆之の諜報力は凄まじく、

噂話、ジョークレベルのことですら、

あらゆる市井の情報を入手しては、

それを劉裕と共有した。


劉裕が民間に適切な施政をなすことが

できたのは、この諜報力のゆえである。


あわせて賓客との饗宴も好んでおり、

常に満席の宴会会場に耳目を巡らせ、

宮中の動静にも劉穆之に

知らないことはなかった。


さらに、いくら親しい者であっても、

推挙は常にその人の適性に応じたもの。

決して身びいきはしなかった。


そのことを、近親者になじられた。

すると劉穆之は答えた。


「最終的な判断は、結局劉裕様だ。

 公の明察にさらされれば、

 結局は同じこと。


 劉裕様に取り立てて頂けたお陰で、

 今の私がある。

 ならば、私は劉裕様に対し、

 一切の後ろ暗いところなしで

 お仕え申し上げる。


 三國志さんごくしの時代、かの張遼ちょうりょうとて

 義兄弟となるにまでの契を結んだ

 関羽かんうの翻意を曹操そうそうに打ち明けただろう。


 あなたとは親しい友人だ。

 だが、公のために働く、

 という目的から考えれば、

 あなたを推挙するわけにはいかんのだ」




從征廣固,還拒盧循,常居幙中畫策,決斷眾事。劉毅等疾穆之見親,每從容言其權重,高祖愈信仗之。穆之外所聞見,莫不大小必白,雖復閭里言謔,塗陌細事,皆一二以聞。高祖每得民間委密消息以示聰明,皆由穆之也。又愛好賓遊,坐客恒滿,布耳目以為視聽,故朝野同異,穆之莫不必知。雖復親暱短長,皆陳奏無隱。人或譏之,穆之曰:「以公之明,將來會自聞達。我蒙公恩,義無隱諱,此張遼所以告關羽欲叛也。」


廣固を征せるに從い、還りては盧循を拒み、常に幙中に居しては策を畫し、眾きの事を決斷す。劉毅らは穆之の親しきに見え、每言を從容し其の權の重きたるを疾めど、高祖は愈よ信じ之に仗す。穆之は外に聞見したる所、大小必ず白わざる莫く、復た閭里の言謔、塗陌の細事と雖も、皆な一二なるを以て聞く。高祖の民間の委密消息を得たる每に以て聰明なるを示さるは、皆な穆之が由なり。又た賓と遊びたるを愛好し、坐が客は恒に滿ち、耳目を布きて以て視聽きしたるを為し、故に朝野の同異に、穆之の必ずや知らざる莫し。復た親暱なるの短長と雖も、皆な陳奏せるを隱したる無し。人の或いは之を譏れど、穆之は曰く:「公の明を以ちたれば、將來にては自ら聞きたるに達せるを會したり。我れ、公が恩を蒙り、義の隱諱せる無かること、此れ張遼の關羽の叛せるを欲したるを告ぐる所以なり」と。高祖が舉止の施為せるに、穆之は皆な節度を下したり。

(宋書42-5_仇隟)




張遼、関羽

https://kakuyomu.jp/works/1177354054887991873/episodes/1177354054887991929


珍しく自作でフォローできる話だ。なんか嬉しい。ところで劉穆之の生きてる時代が陳寿ちんじゅ撰三國志と裴松之はいしょうし注の間なのが無駄に楽しい。と言うのも「親しき者であっても上のものに対しては包み隠さず語る」という姿勢は、正史本文にはなく、裴注が引く「傅子ふし」を見ないと出てこない内容なのだ。


そして、宋書成立の段階ではすでに裴注が名注としての地位を確かなものとしている。つまり、これは――?


まぁ、三國志だけでなく傅子そのものも流通してたのであれば十分語れる話ではあるし、こいつをもって「沈約先生、盛りすぎィ!」とは言えないわけなのだけれど。劉穆之みたいなキャラなら、正史は言うに及ばず、たくさんのその他書物にも目を通してただろうし。


とりあえず、「おっ、野史にて語られるのですナ、デュフフッ、お主出来ておりますなフォヌカプゥ……」ごっこはできそうである。


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