五行3  鶏妖とか    

孝武帝こうぶてい治世の末ごろ。


廣陵こうりょう高平こうへい県の人、閻嵩えんすうの家で、

生まれながらにして右の翼がない

オスの鶏が生まれた。


一方で、彭城ほうじょう人の到象之とうしょうしの家では、

右足の無い鶏が生まれていた


京房けいぼうというひとが著した

易傳えきでん」という本には、こうある。


「これは鶏妖と言われている。

 君主が妻の言いなりになっている時に

 発生する現象だ」



数年後、孝武帝は側室に殺され、

その後に安帝が立った。


このとき司馬道子しばどうしの家では、

青いメスの雞が赤いオスに変わった。

しかしオスにも拘らず鳴くことはなく、

しかも大きくはならなかった。


後に司馬道子は、桓玄かんげんに敗北する。

この現象は、桓玄に敗北する兆しであった、

と見なされた。



桓玄が司馬元顕しばげんけんらを倒す、

まさに、その前夜。


荊州けいしゅうの鶏に、角が生えた。

ただしその角は、すぐに落ちてしまった。


桓玄の建康けんこう侵攻は、その直後である。


角とは軍事の象徴。

それがすぐに落ちた、ということは、

この軍事が満足な成果を残せない、

となる。



そして桓玄が中央に入り、

いよいよ簒奪を実践しようか、という頃。

衡陽こうようにいたメスの鶏に、

とさかが生えてきた。

ただし、八十日ほどでしぼんだ。


衡陽といえば、桓玄がとして

自分の封土に割り当てたエリアである


そして、桓玄が帝位に継いていた期間も、

約八十日。


徐廣じょこうは、これを桓玄についての

予言である、とした。



また、司馬元顕が桓玄を倒さんと挙兵、

揚州府の南側に二本の旗を立てた。

が、西はうまく立ったが、

東がなかなか安定しない。


あれやこれやの工夫の末に

ようやく安定したが、

人々は司馬元顕の先行きに、

薄暗いものを感じるのだった。


そしてその懸念のとおり、

司馬元顕は敗北、捕われた。



それから、桓玄の簒奪前夜のこと。


樂賢堂がくけんどう、という建物が、唐突に壊れた。

識者は言う。これは天意の表れであると。


安帝が蒙昧であり、

賢人の言葉を楽しむ心を持たないからこそ、

樂賢堂は倒壊したのだ、と。


また義熙九年にも、國子聖堂こくしせいどうが壞れている。

国士を尊ぶ気持ちがないから、

という解釈になるだろうか。


安帝は、実質二度の廃立を受けている。

一回目は桓玄、二回目は劉裕りゅうゆうからである。




晉孝武太元十三年四月,廣陵高平閻嵩家雄雞,生無右翅;彭城到象之家雞,無右足。京房易傳曰:「君用婦人言,則生雞妖。」晉安帝隆安元年八月,琅邪王道子家青雌雞化為赤雄,不鳴不將。後有桓玄之事,具如其象。隆安四年,荊州有雞生角,角尋墮落。是時桓玄始擅西夏,狂慢不肅,故有雞禍。角,兵象;尋墮落者,暫起不終之妖也。晉安帝元興二年,衡陽有雌雞化為雄,八十日而冠萎。衡陽,桓玄楚國封略也。後篡位八十日而敗,徐廣以為玄之象也。晉安帝元興元年正月丙子,司馬元顯將西討桓玄,建牙揚州南門,其東者難立,良久乃正。近沴妖也。尋為桓玄所禽。元興三年五月,樂賢堂壞。天意若曰,安帝囂眊,不及有樂賢之心,故此堂見沴也。晉安帝義熙九年五月乙酉,國子聖堂壞。


晉の孝武の太元十三年四月、廣陵の高平の閻嵩が家の雄の雞、生まれながらにして右の翅無く、彭城の到象之が家の雞にては、右足無し。京房が《易傳》に曰く:「君の婦人が言を用うるに、則ち雞妖生ず」と。晉の安帝の隆安元年の八月、琅邪王の道子が家の青き雌の雞は化して赤き雄と為り、鳴かず將ぜざる。後に桓玄の事有り、具さなること其の象が如し。隆安四年、荊州の雞に角の生えたる有れど、角は尋いで墮落す。是の時、桓玄は始めて西夏を擅じ、狂慢し肅さず、故に雞禍有り。角は兵の象にして、尋いで墮落したるは、暫起したるも之を終えざるの妖なり。晉の安帝の元興二年、衡陽に雌雞の化して雄に為りたる有り、八十日にして冠は萎む。衡陽は桓玄の楚國の封略なり。後にして位を篡いたること八十日にして敗れたれば、徐廣は以て玄の象を為したるなり。晉の安帝の元興元年の正月の丙子、司馬元顯は將に桓玄を西討せんとせるに、揚州南門に牙を建てたれど、其の東なるは立つるを難じ、良や久しうして乃ち正さる。近沴が妖なり。尋いて桓玄に禽わる所と為る。元興三年五月、樂賢堂が壞る。天意の曰いたるが若きは、安帝の囂眊にして、不樂賢の心を有せるに及ばざれば、故に此の堂は沴るるに見えたるなり、と。晉の安帝の義熙九年五月の乙酉、國子聖堂が壞る。

(宋書30-3_術解)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る