五行1  破滅のきざし  

五行志 全13編



桓玄かんげんが簒奪して間もない頃、

龍旗の竿が折れた。

龍旗、言わばのシンボルそのもの。


桓玄は皇帝になったのにもかかわらず、

政務もろくに執らずに遊び回る。

猟に出れば夜遅くまで帰ってこないし、

その食事はいつも贅が尽くされたもの。


土木工事を立ち上げて農業を邪魔し、

しかもちょくちょく詐術で人を陥れる。


これらの振る舞いを受け、龍旗の竿が

精気を失い、枯れてしまったのだ。


旗に記されているのは太陽、月、星。

すなわち、天の恵み、である。

そんな旗の竿が、折れた。

ここに桓玄の命運は尽きた。


即位後、約八十日。

桓玄は、劉裕りゅうゆうに敗れた。



劉裕が南燕なんえん討伐に出ていた頃のこと。

しんの朝廷は、劉毅りゅうきに誰か王の嫡子を

接待させようとした。

誰の子かは不明。司馬徳文しばとくぶんだろうか。


ともあれ劉毅、これを重大な任務と認識、

宴席を設け、自ら接待。

この様子を、監察役に見せた。


監察役「しょぼっ」


やれやれ、と立ち去る監視役。

やがて主賓も立ち去ろうとする。


接待は失敗。

ぐぬぬとなる劉毅さん、

接待を企画したスタッフ、

劉敬叔を解任してしまった。


劉毅の振る舞いを知った識者たちは、

あー、やっちまったな、と評価。


礼に適わかったのは、

結局のところ劉毅の失策だ。

その責任を部下に押し付けるのか。

たちまち、こいつは傲慢だな、

そういう評判が立つのだった。



かの名将、謝玄しゃげんの孫、謝靈運しゃれいうん

かれの才覚はずば抜けたものだったが、

その側には、常にその挙動を

サポートする取り巻きがいた。


四人挈衣裙 三人捉坐席

 あのボンボン、取り巻き四人に

 裾を引きずらないよう持たせて、

 三人に席を確保させやがる。


ちまたに、こんな流行歌が出るほどである。


傲慢にもほどがあるふるまいだったので、

後々、処刑されている。




桓玄始篡,龍旗竿折。玄田獵出入,不絕昏夜,飲食恣奢,土水妨農,又多奸謀,故木失其性也。夫旗所以擬三辰,章著明也。旗竿之折,高明去矣。在位八十日而敗。晉安帝義熙七年,晉朝拜授劉毅世子。毅以王命之重,當設饗宴親,請吏佐臨視。至日,國僚不重白,默拜於廄中。王人將反命,毅方知,大以為恨,免郎中令劉敬叔官。識者怪焉。此墮略嘉禮,不肅之妖也。陳郡謝靈運有逸才,每出入,自扶接者常數人。民間謠曰「四人挈衣裙,三人捉坐席」是也。此蓋不肅之咎,後坐誅。


桓玄の始め篡ぜるに、龍旗の竿が折れる。玄は田獵に出入りし、昏夜を絕えず、飲食は奢を恣とし、土水にて農を妨げ、又た奸謀多く、故に木は其の性を失いたるなり。夫れ旗は以て三辰を擬せる所なれば、章は著明なり。旗竿の折れたるは、高明の去りたるのみ。位に在ること八十日にして敗る。晉の安帝の義熙七年、晉朝は劉毅に世子を拜授せしむ。毅は王命の重きを以て、當に饗を設け親しきと宴し、吏佐に請うて臨みて視せしむ。日の至れるに、國僚は重からざるを白い、默して廄中にて拜す。王人の將に反命せんとせるに、毅は方に知らんとし、大いに以て恨みたるを為し、郎中令の劉敬叔を免ず。識者は怪みたり。此れ嘉禮の墮略にて、不肅の妖なり。陳郡の謝靈運には逸才有り、出入りたるの每、自ら扶接せる者、常に數人なり。民間の謠に曰く「四人は衣裙を挈り、三人は坐席を捉う」は、是れなり。此れ蓋し不肅の咎にして、後に誅に坐す。


(宋書30-1_術解)




五行

いろんな怪奇現象を、後々の事件のきっかけとして見なす感じの奴。ここまでに展開した詩妖も五行の一部なのだが、存在感として別格なので先に取り扱いました。


ぶっちゃけ二番目三番目が謎。いや、全部か。ただ、だれもかれもがゴーマンさをぶっ叩かれましたよ、って話なのは間違いがなさそう。



劉敬叔りゅうけいしゅく

桓玄打倒あたりから劉毅の属官として働いてきた文官。「異苑」という志怪小説の作者として名を残している。しかし志怪小説たちって人為エピソード集のようにも読めるんだよなあ。やっぱり拾うべきかしら……と思って読んでいたら異宛巻二で


洛鐘鳴

魏時,殿前大鐘無故大鳴。 【 或作不扣自鳴。】 人皆異之,以問張華。華曰:「此蜀郡銅山崩,故鐘鳴應之耳。」尋蜀郡上其事,果如華言。


吳郡石鼓

晉武帝時,吳郡臨平岸崩,出一石鼓,打之無聲,以問張華。華云:「可取蜀中桐材,刻作魚形,打之則鳴矣。」於是如言,音聞數十里。


銅澡盤

晉中朝有人畜銅澡盤,晨夕恆鳴,如人扣。乃問張華,華曰:「此盤與洛鐘宮商相應,宮中朝暮撞鐘,故聲相應耳。可錯令輕則韻乖,鳴自止也。」如其言,後不復鳴。


燃石

豫章有石,黃白色而理疏,以水灌之,便熱,加鼎於上,炊足以熟,冷則灌之。雷煥以問張華,華曰:「此燃石也。」


張華さん無双が繰り広げられてて爆笑した。困った時の博物志先生!

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