詩妖6  盧循さんの歌1 

桓玄かんげん打倒がなって間もなくのことである。

こんな童謡が流行した。


官家養蘆化成荻

蘆生不止自成積

 お役人の育てた蘆が荻となる

 一度生えた蘆は増殖を止められない


当時政府は、盧龍ろりゅうなる男を重宝していた。

いわゆる高官、州刺史クラスの待遇。


盧循ろじゅん(幼名元龍げんりゅう)のことである。


政府は、孫恩そんおんから五斗米道ごとべいどう勢力を継承した

盧循を何とか手懐けようとしたものの失敗、

結局盧循は挙兵し、侵攻してきた。


「蘆生不止自成積」。

盧循の勢力伸長を

食い止め切れなかったことを暗示している。

人々は童謡の実現を恨んだ。


だが、ある占い師が語っている。


「刈り取った草木を積み上げて、

 そこに火を放つ。

 そうすれば草は一気に取り除かれよう。


 あるいは伐採し、薪とするのだ。

 そうすれば燃えてなくなるだろう」


盧循がその兵力を頼みとして侵攻、

またその進行には巨大な戦艦が用いられた。


が、劉裕りゅうゆう軍によって殲滅。

盧循軍は大いに屍を積み上げた。



また盧循が広州こうしゅう刺史の呉隠之ごいんしを幽閉して

広州に拠点を構えた時、

民間ではこんな歌が歌われた。


蘆生漫漫竟天半

 蘆が盛んに生え茂り、

 ついには空にも迫ろうとする。


やがて盧循、挙兵をすれば、

建康けんこうに至るいくつもの郡を陥落させた。


このことから「天を半ばす」と歌われた。




晉安帝義熙初,童謠曰:「官家養蘆化成荻,蘆生不止自成積。」其時官養盧龍,寵以金紫,奉以名州,養之已極,而不能懷我好音,舉兵內伐,遂成讎敵也。「蘆生不止自成積」,及盧龍作亂,時人追思童謠,惡其有成積之言。識者曰:「芟夷蘊崇之,又行火焉,是草之窮也。伐斫以成積,又以為薪,亦蘆荻之終也。其盛既極,亦將芟夷而為積焉。」龍既窮其兵勢,盛其舟艦,卒以滅亡,僵屍如積焉。盧龍據有廣州,民間謠雲:「蘆生漫漫竟天半。」後擁有上流數州之地,內逼京輦,應「天半」之言。時復有謠言,龍後果敗,不得入石頭矣。


晉の安帝の義熙の初め、童謠に曰く:「官家は蘆を養い荻に成りて化す、蘆は生え自ら積みたるの成るを止まず」と。其の時、官は盧龍を養い、寵ぜるに金紫を以てし、奉じ以て名州とし、之を養うこと已にして極みたれど、我好の音を懷かしむる能わず、舉兵し內伐し、遂には讎敵と成りたるなり。「蘆生不止自成積」は、盧龍の亂を作したるに及び、時の人は追いて童謠を思い、其の成積の言の有りたるを悪む。識者は曰く:「芟夷は之を蘊崇し、又た火を行いたるは、是れ草の窮みなり。伐斫し以て成積し、又た以て薪と為す、亦た蘆荻の終なり。其の盛りたるの既にして極みたれば、亦た將に芟夷は積まれたるを為したらん」と。龍の既にして其の兵勢を窮み、其の舟艦を盛んとさば、卒は以て滅亡し、僵屍は積まれたるが如し。盧龍は據して廣州を有し、民間の謠に雲えらく:「蘆は漫漫と生え、竟には天を半ばす」と。後に上流に有りたる數州の地を擁し、內に京輦に逼りたれば、「天半」の言に應ず。

(宋書31-8_言語)




おい盧龍って誰だよそんな奴知らねえぞって興奮してたら盧循のことでした。おまえさー! なんでそこでさー! いきなり世説新語みてーなことしてんだよってゆうさー!


なお楽府詩集によれば、本文は「應『天半』之言」のあとに「時復有謠言,龍後果敗,不得入石頭矣」って文が欠落している、とのことだが、別に拾う意味もないのでシカトします。

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