劉裕69 帝至徳なり1  

劉裕りゅうゆうは己を厳しく律し、

法度をもまた厳正に整えた。


彼の馬には余計な飾り物などなく、

音楽にうつつを抜かすこともなかった。


あるとき寧州ねいしゅうから

虎魄こはくの枕が献上されたことがあった。

この時劉裕は北伐を期していた。

虎魄が刀傷に良いと聞いていたため、

劉裕は大喜びで枕を砕き、諸将に配った。


後秦こうしん討伐の折には

姚興ようこうの従妹に大いに入れあげ、

諸事をおろそかにこそしかけたが、

謝晦しゃかいに諫められると、すぐに暇を出した。


財貨はすべて外府に預けており、

私藏することはなかった。


皇帝となったのちにも、

調度品に銀の塗装を為そうという

提案を却下し、鉄の釘にて作成させた。


娘たちを他家に嫁がせる際にも

二十万銭以上の出費はしなかったし、

無論錦繡金玉にて

飾り立てることもしなかった。


何事にも簡素を好み、

履物は常に木のわらじ、

神虎じんこ門から散歩に出ることを好んだが、

從者は多くとも十数人ほどであった。


徐羨之じょせんしが西州に住んでいたため

徐羨之の家までひょっこり歩いて

出たりなどもした。


追従が慌てて追ったが、

その時はすでに城外に

出ていってしまった後だった。


自室では子らと共に過ごし、

ひとたび公務を離れれば公服を擲ち、

家族らと親しんだ。



のちに孝武帝・劉駿りゅうしゅん

劉裕の居宅を取り壊して、

そこに玉燭殿を建築しようと考えた。

そこで群臣らとともに入ってみれば、

土がむき出しの壁に、

挂葛の粗末な燈籠や、

麻の繩拂が掛かるのみであった。


侍中・袁顗えんぎは劉裕の倹素の德を

しきりに褒め称えたが、

劉駿はそれには応じず、ぼそりと


「田舍者が、

 ずいぶんご立派になったものだ」


とつぶやいた。


しかし、このようであったからこそ

劉裕は大業を成し遂げたのである。




上清簡寡欲,嚴整有法度,未嘗視珠玉輿馬之飾,後庭無紈綺絲竹之音。寧州嘗獻虎魄枕,光色甚麗。時將北征,以虎魄治金創,上大悅,命擣碎分付諸將。平關中,得姚興從女,有盛寵,以之廢事。謝晦諫,即時遣出。財帛皆在外府,內無私藏。宋臺既建,有司奏東西堂施局脚牀、銀塗釘,上不許;使用直脚牀,釘用鐵。諸主出適,遣送不過二十萬,無錦繡金玉。內外奉禁,莫不節儉。性尤簡易,常著連齒木屐,好出神虎門逍遙,左右從者不過十餘人。時徐羨之住西州,嘗幸羨之,便步出西掖門,羽儀絡驛追隨,巳出西明門矣。諸子旦問起居,入閤脫公服,止著裙帽,如家人之禮。孝武大明中,壞上所居陰室,於其處起玉燭殿,與羣臣觀之。牀頭有土鄣,壁上挂葛燈籠、麻繩拂。侍中袁顗盛稱上儉素之德。孝武不答,獨曰:「田舍公得此,以為過矣。」故能光有天下,克成大業者焉。


上は清簡にして欲寡なく、嚴整なる法度を有し、未だ嘗て珠玉輿馬の飾を視ず、後庭には紈綺絲竹の音無し。寧州より嘗て虎魄の枕を獻ぜらるるに、光色は甚だ麗かなり。時に將に北征せんとせば、虎魄を以て金創を治したれば、上は大いに悅び、擣碎し諸將に分付すべしと命ず。關中を平ぐるに、姚興が從女を得、盛んに寵を有し、之を以て事を廢る。謝晦の諫むるに、即時にて遣りて出だしむ。財帛は皆な外府に在り、內に私藏せる無し。宋臺の既に建つるに、有司の東西堂に局が脚牀を施したるに、銀を釘に塗らんと奏ぜど、上は許さず、使用直だ脚牀に鐵を用いて釘せしむ。諸主の出適せるに、遣じて送らしむるに二十萬を過ぎず、錦繡金玉無し。內外の奉ぜるを禁じ、節儉せざる莫し。性は尤も簡易、常に連齒の木屐を著け、神虎門より出で逍遙せるを好み、左右の從者は十餘人を過ぎず。時にして徐羨之の西州に住きたるに、嘗て羨之を幸いし、便ち步にて西掖門を出で、羽儀絡驛は追隨せど、巳にして西明門に出でたるなり。諸子の旦に起居を問うに、閤に入りて公服を脫ぎ、裙帽の著せるを止め、家人の禮に如くす。孝武の大明中、上が居せる所の陰室を壞し、其が處に玉燭殿を起つらんと、羣臣と與に之を觀る。牀頭に土鄣有り、壁が上に葛燈の籠、麻の繩拂を挂ぐ。侍中の袁顗は盛んに上が儉素の德を稱う。。孝武は答えず、獨だ曰く:「田舍公の此くを得たるに、以て過ぎりたるを為したらん」と。故に有天下に能く光を有し、大業を克成したる。


(宋書3-6_徳行)

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