劉裕45 旗が折れる   

盧循ろじゅん劉裕りゅうゆうの追撃を確認すると、

豫章よしょうに向けての逃亡を図った。


また劉裕たちを足止めするため、

左里さりと言う地に防護柵を全力で築いた。


左里に到着した劉裕軍。

いざ戦おう、という時、

劉裕の側にあった旗の棹が折れ、

川に沈んで行ってしまった。


それを見た兵士たちに動揺が走る。


劉裕、その様子に

小さくため息をついた後、

敢えて笑って見せた。


桓玄かんげんと戦った、

 覆舟山ふくしゅうざんでの戦いの時にも、

 やはり旗が折れた。


 いま同じことが起こった、

 となれば、同じことが起こる、

 という事だろう。


 俺たちが勝つんだよ」


そう言って、攻撃を命令。


ここでの五斗米道軍ごとべいどうぐんの抵抗は

まさに死戦と呼ぶに

ふさわしいものではあったが、

もはや劉裕軍の勢いを

食い止められたものではなかった。


諸軍は勝ちに乗じ、追撃をかける。

そのため盧循は

わずかな手勢を引き連れて逃走。


戦死したもの、川に落ちて水死したもの、

およそ一万人強。


ただし降伏者については受け入れ、

反乱の罪も不問とした。


一方では劉藩りゅうはん孟懐玉もうかいぎょく

軽装兵を率いさせ、

盧循を追撃させた。


一方の盧循、逃亡しながら

散り散りになっていた

残余兵を吸収。

それでも何とか数千人規模の

軍容を保ち、番禺ばんうに向かった。


徐道覆じょどうふくは拠点の始興しこうに戻り、

改めて防備を固める。



あとは配下将たちに任せるべき局面だ。


劉裕、船の舳先を巡らせ、

建康けんこうへと帰還するのだった。




循聞大軍上,欲走向豫章,乃悉力柵斷左里。大軍至左里,將戰,公所執麾竿折,折幡沈水,眾並怪懼。公歡笑曰:「往年覆舟之戰,幡竿亦折,今者復然,賊必破矣。」即攻柵而進。循兵雖殊死戰,弗能禁。諸軍乘勝奔之,循單舸走。所殺及投水死,凡萬餘人。納其降附,宥其逼略。遣劉藩、孟懷玉輕軍追之。循收散卒,尚有數千人,逕還廣州。道覆還保始興。公旋自左里。


循は大軍の上りたるを聞くに、豫章に向け走らんと欲し、乃ち力を悉くし柵し左里を斷つ。大軍の左里に至るれば、將に戰かわんとせるに、公が執りたる所の麾の竿は折れ、折れたる幡の水に沈みたれば、眾は並べて怪しみ懼るる。公は歡じて笑いて曰く:「往まし年の覆舟の戰にても、幡が竿は亦た折れたり。今なるは復た然りたれば、賊は必ずや破りたらん」と。即ち柵を攻め進む。循が兵は殊に死戰したりと雖ど、禁ずる能う弗し。諸軍は勝ちに乘じ之に奔り、循は單舸にて走る。殺したる所及び水に投げ死したるは、凡そ萬餘人なり。其の降附せるを納め、其の逼略せるを宥す。劉藩、孟懷玉を遣りて輕軍にて之を追う。循は散卒を收め、尚お數千人を有し、逕ちに廣州に還る。道覆は還りて始興を保つ。公は左里より旋る。


(宋書1-44_胆斗)




以上で、宋書一巻は終了。

「将軍としての劉裕の栄達」

を描いた巻でした。


二巻は晋の重鎮として、

押しも押されぬ第一人者としての

地歩を固めるための政争、に

切り替わっていきます。


ここからの話がまたエグい。

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