劉裕37 劉毅敗北    

劉裕りゅうゆうとともに桓玄かんげんを打倒した

ヒーローの一人、劉毅りゅうき

その戦績は見事にオミットされ、

「劉裕に頭を押さえつけられて

 パッとしなかった人」

扱いになっている。


この五斗米道ごとべいどう戦でも、

華々しい戦績を上げる劉裕に対抗しようと、

焦って防衛戦に打って出ようとした、

ということだ。


劉裕、そんな劉毅に宛てて

手紙を書いたと言う。


「劉毅、お前五斗米道の奴らと

 戦ったことないだろう。


 アイツら、ただでさえやばかったのに、

 よりいやらしく、厄介になってやがる。


 そこに加えて、今回の何無忌かむき打倒だ。

 その勢い、到底侮れたもんじゃねえぞ。


 いいか、軽々に動くな。

 重々に装備を整えた上で、

 俺の弟、道規どうきと合流しろ」


更には劉裕、南燕なんえん討伐に参加していた、

劉毅のいとこ、劉藩りゅうはん

も説得のために派遣した。

が、失敗。


昔には王敦おうとん桓温かんおんも拠点としていた、

建康けんこうの南にある港町、姑孰こじゅくから

水軍二万を引き連れ、進発してしまった。


一方、五斗米道。

盧循ろじゅんが川の流れに従って北上すると、

徐道覆じょどうふく尋陽じんように向かわせ、

自らは湘州しょうしゅうの各地を攻撃した。


荊州けいしゅう刺史の劉道規りゅうどうき長沙ちょうさ

軍を差し向けたものの、

五斗米道軍に敗退。

盧循は余勢を駆って、

そのまま劉道規が詰めていた

江陵こうりょうにまで攻めかかろうとした。


が、そんな五斗米道軍のもとに

劉毅が攻めてきた、と言うニュース。

慌てて徐道覆、盧循に使いをやった。


「劉毅軍は多勢の上士気も高く、

 やつを倒すには、独力では

 至難と言えましょう。


 どうかここは、

 お力を合わせてくださるまいか。


 この戦いに勝てさえすれば、

 ほぼ趨勢は決しましょう。

 先にも申し上げましたが、

 根本さえ抑えてしまえば、

 その上に乗るものを平らげるのに

 憂慮はなくなります」


この知らせを受け、盧循は

すぐさま江陵に向かう道から反転、

改めて尋陽に向かい、徐道覆に合流。


盧循、徐道覆の旗艦のほか、

八艘もの巨船が居並んだ。


帆は九枚、船内は四層構造、

その総船高は十九メートル以上。

水軍としての、規模が違いすぎた。


劉毅は桑落洲そうらくしゅうにて惨敗。

船を捨て、陸路を逃走した。

逃げ損じた晋軍兵は、みな捕まった。




撫軍將軍劉毅抗表南征,公與毅書曰:「吾往習擊妖賊,曉其變態,新獲姦利,其鋒不可輕。宜須裝嚴畢,與弟同舉。」又遣毅從弟藩往止之。毅不從,舟師二萬,發自姑孰。循之初下也,使道覆向尋陽,自寇湘中諸郡。荊州刺史道規遣軍至長沙,為循所敗。逕至巴陵,將向江陵。道覆聞毅上,馳使報循曰:「毅兵眾甚盛,成敗事係之於此,宜并力摧之。若此克捷,天下無復事矣。根本既定,不憂上面不平也。」循即日發巴陵,與道覆連旗而下。別有八艚艦九枚,起四層,高十二丈。公以南藩覆沒,表送章綬,詔不聽。五月,劉毅敗績于桑落洲,棄船步走,餘眾不得去者,皆為賊所擒。


撫軍將軍の劉毅は抗うるに南征せんと表したれば、公は毅に書を與えて曰く:「吾れ往ましきに妖賊を擊ちたるを習いたり。其の變態の曉なるに、新たに姦利を獲らば、其の鋒を輕んずべからず。宜しく須らく畢く裝いたるを嚴とし、弟と舉を同じくすべし」と。又た毅の從弟の藩を遣りて往かしめ之れを止ましむ。毅は從わず、舟師二萬にて姑孰より發す。循の初にして下りたるにては、道覆をして尋陽に向かわしめ、自らは湘中の諸郡を寇す。荊州刺史の道規は軍を遣りて長沙に至らしむれど、循に敗せる所と為る。逕ちに巴陵に至り、將に江陵に向かわんとす。道覆は毅の上りたるを聞き、使を馳せて循に報せて曰く:「毅が兵の眾く甚だ盛んなれば、敗事を成すにては此に之きて係り、宜しく力を并せ之を摧すべし。若し此れに克捷さば、天下に復た事無からん。根本の既にして定むらば,上面を平らがざるに憂わざらんなり」と。循は即日にして巴陵を發し、道覆と與に旗を連ね下る。別に八艚の九枚,起四層,高十二丈なる艦を有す。公は南藩の覆沒せるを以て、表して章綬を送れど、詔して聽かず。劉毅は桑落洲にて敗績し、船を棄て步にて走げ、餘りたる眾にて去りたるを得ざる者は、皆な賊の擒うる所と為る。


(宋書1-36_規箴)



「劉道規と合流さえすれば劉毅は勝てていた」なる仮説に基づき、劉裕の発言が引き出されている印象がある。実際のところ劉道規は徐道覆に完封されているわけで、かつ明らかに劉毅よりも脅威度としては格下に扱われている。


ちなみに桓玄追討戦では、戦功序列が劉毅、何無忌、劉道規の順。けど宋書は「劉道規のサポートがあったからこそ、二人はごっつい戦功を挙げられたんやで!」と主張する。なんつーか、沈約先生……劉道規が有能だったのを疑う気はないですけど、あんまり粉飾しないでくださいませんかねぇ……。

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