劉裕27 刁氏三万銭(宋)

4月、武陵王ぶりょうおう司馬遵しばじゅんを奉じて

大将軍だいしょうぐんとなし、安帝あんていの代理として立てた。

大赦が布告されたが、

桓玄かんげんの一派親族については例外とされた。



劉裕りゅうゆうの家は貧しかった。

そのため桓玄かんげんの配下である刁逵ちょうきから

土地神を祀るための祭祀費用を

三万銭ほど借りていた。


が、どうにもそれを返す当てがない。

そこで刁逵、劉裕を捕え、

厳しく尋問した。


そこに偶然やってきた王謐おうひつ

密かに借金を肩代わりしてやった。


そのようなことがあったからか、

当時の盛族で微賤の出の劉裕を

気に掛けるものなどほぼいなかったが、

王謐だけは劉裕と交わっていた。



やがて、桓玄が

いよいよ簒奪をなそう、という時。


玉座でどこを見るでもなく、

うつろに腰かけている安帝の腰帯には

印璽がぶら下がっている。


王謐は、安帝から印璽を取り上げた、

言ってみれば実行犯の一人。

そのため桓玄簒奪成就の際には

佐命功臣として名を挙げられていた。


つまり、の幹部である。

クーデター軍にしてみれば、

血祭りにあげるべき対象だ。


王謐誅すべし、皆々が声を上げる。

だがただ一人、劉裕のみが

その声を抑え込んだため、

王謐は命を長らえるのだった。


印璽の話を知っていた劉毅りゅうきが、

王謐に朝廷でその所在を問うたため、

王謐はさらに恐れた。

王愉おうゆ父子が誅されるに及び、

王謐のいとこ王諶おうしんが言う。


「王愉は無罪だったというのに、

 義旗のもとに誅された。

 我々は排除されるかもしれない。

 兄上は桓氏の黨附を受けており、

 民からも楚の重臣として見なされている。

 許しを求めて、果たして

 受け入れてもらえるものだろうか?」


王謐は恐れ、曲阿きょくあへと逃亡した。

そこで劉裕は司馬遵しばじゅん

「王謐とは親交深く、

 ぜひとも復位の上で迎えたい」

と上奏した。




四月,奉武陵王遵為大將軍,承制。大赦天下,唯桓玄一祖後不在赦例。高祖家貧,嘗負刁逵社錢三萬,經時無以還。逵執錄甚嚴,王謐造逵見之,密以錢代還,由是得釋。高祖名微位薄,盛流皆不與相知,唯謐交焉。桓玄將篡,謐手解安帝璽紱,為玄佐命功臣。及義旗建,眾並謂謐宜誅,唯高祖保持之。劉毅嘗因朝會,問謐璽紱所在,謐益懼。及王愉父子誅,謐從弟諶謂謐曰:「王駒無罪,而義旗誅之,此是剪除勝己,以絕民望。兄既桓氏黨附,名位如此,欲求免得乎?」駒,愉小字也。謐懼,奔于曲阿。高祖牋白大將軍,深相保謐,迎還復位。


四月,武陵王の遵を奉じ大將軍を為し,制を承かしむ。天下に大赦せど、唯だ桓玄と祖を一とせる後にては赦例を在さず。高祖が家は貧しく、嘗て刁逵に社錢三萬を負い、時を經ども以て還ぜる無く、逵に執われ錄されたること甚だ嚴なれば、王謐は逵に造りて之を見、密かに錢を以て代りて還じ、是の由にて釋さるるを得る。高祖の名は微にして位は薄く、盛流は皆な相い知りたるに與からねど、唯だ謐とは交わりたる。桓玄の將に篡ぜんとせるに、謐は手ずから安帝が璽紱を解く。玄は命を佐くる功臣と為す。義旗の建つるに及び、眾は並な謐を宜しく誅すべしと謂えど、唯だ高祖は之を保持す。劉毅は嘗て朝會に因り、謐に璽紱が所在を問わば、謐は益ます懼る。王愉父子の誅さるに及び、謐の從弟の諶は謐に謂いて曰く:「王駒は罪無かるも、而して義旗は之を誅す,此れや是れ己に勝れるを剪除し、以て民望を絕てんとせり。兄は既に桓氏が黨附にして、名位は此くの如きなれば、免ぜるを求めんと欲せど得たらんか?」と。駒は愉が小字なり。謐は懼れ,曲阿に奔る。高祖は牋し大將軍に白すらく:「深く相い謐を保ち、迎え還ぜしめ位に復せん」と。


(宋書1-27_寵礼)




刁逵

結構悪辣な貨殖に邁進してたらしい。若い頃の劉裕も、この人に多額の借金をしていた。その後殺されたら市井が潤ったとか。



さて、基本的にエピソード群は

宋書→南史→魏書、の順で

さらおうと思っています。


ただ、ここでは一回だけ、

先んじて魏書記述に触れておきます。


と言うのも、

「偉大なる宋の高祖」と

「邪悪なる宋の親分」。

ここの違いが、どう出てくるのか。

そいつを一度紹介しておくのも

面白いかな、と思うのですね。


なので次話は、

魏書に載っている、

刁逵から借りた三万銭の話です。

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