劉裕8  孫恩、京口強襲 

五斗米道ごとべいどうの乱は、会稽かいけいが陽動だった。

6月、孫恩そんおんは船団を率いて

海伝いに長江ちょうこうに侵入。

十万からなる反乱軍が、都・建康けんこうの玄関口、

京口けいこうに迫る。


このとき劉牢之りゅうろうしは、

いまだ会稽かいえきに縛り付けられていた。

あの突き抜けた武力に頼れない。

人びとは絶望にくれる。


っが、そんな局面を打破する勢力がいた。

劉裕りゅうゆうだ。

反乱軍が建康強襲を狙っていると察知、

昼も夜もなく全速で京口に帰還。


到着は、反乱軍とほぼ同時。


しかし累戦を経て兵力は著しく削がれ、

強行軍により兵士の疲労は頂点にある。

そのうえ丹徒の守備隊の士気は

もはや消えうせていた。


その頃孫恩は上陸し、

長江ちょうこう沿岸にせり出す山、蒜山れいざんを占拠。

鼓吹、歓声が響き、

地元住民は荷物を持って逃げだした。


勝ちに驕る孫恩たちのところを

劉裕、強襲。大破する。


反乱軍は迎撃らしい迎撃もできず、

山から転げ落ちるもの、

長江に突き落とされるものなどが出て、

多数の死者が出た。


それらの音を聞きつけた孫恩、

慌てて僅かな伴と共に

船に逃げ帰るのだった。


しかし孫恩は敗れてもなお

勢いを恃みに建康へと向かった。

そのやぐら船は非常に大きかったため、

向かい風にあってうまく進めなくなり、

十日ばかりしてようやく白石はくせき

建康の北にある河港に到着した。


その頃にはすでに劉牢之も都へと帰還し、

防備体制が整えられていた。

孫恩は都への進撃をあきらめ、

鬱洲うつしゅうへと逃亡した。


8月、劉裕は建武將軍けんぶしょうぐん下邳太守かひたいしゅに任命された。

水軍を率いて鬱洲へ出向き、

孫恩を散々に打ち負かし

南方へと追いやった。


劉裕は追撃の手を緩めず、

11月には滬涜ことく海鹽かいえんで大打撃を与えた。

三度の戦いで多くの捕虜を得、

多くの首級を上げた。


逃亡を続ける孫恩の手勢にはやがて

飢えや疫病などの追い討ちも加わり、

死者は過半数を超すような有様となった。

こうして孫恩は浹口きょうこうを経て臨海りんかいへと逃れた。




六月,恩乘勝浮海,奄至丹徒,戰士十餘萬。劉牢之猶屯山陰,京邑震動。高祖倍道兼行,與賊俱至。于時眾力既寡,加以步遠疲勞,而丹徒守軍莫有鬭志。恩率眾數萬,鼓噪登蒜山,居民皆荷擔而立。高祖率所領奔擊,大破之,投巘赴水死者甚眾。恩以彭排音敗自載,僅得還船。雖被摧破,猶恃其眾力,徑向京師。樓船高大,值風不得進,旬日乃至白石。尋知劉牢之已還,朝廷有備,遂走向鬱洲。八月,以高祖為建武將軍、下邳太守,領水軍追討至鬱洲,復大破恩。恩南走。十一月,高祖追恩於滬瀆,及海鹽,又破之。三戰並大獲,俘馘以萬數。恩自是饑饉疾疫,死者太半,自浹口奔臨海。


六月,恩は勝てるに乘じ海を浮み、奄いて丹徒に至り、戰士は十餘萬なり。劉牢之は猶お山陰に屯し、京邑は震動す。高祖は倍道兼行し、賊と俱に至る。時に眾が力は既にして寡、加えて遠きに步みたるを以て疲勞し、丹徒が守軍に鬭志を有せる莫し。恩は眾數萬を率い、鼓噪して蒜山に登り、居民は皆な荷を擔いて立つ。高祖は領せる所を率いて奔りて擊ち、大いに之を破り、巘に投じ水に赴きて死にたる者甚だ眾し。恩は彭排さる音を以て自ら載り、僅かなりと船に還ぜるを得る。摧破を被ると雖ど、猶お其の眾力を恃みとし、徑ちに京師に向かう。樓船は高大なれば、風に值いて進み得ず、旬日にして乃ち白石に至る。尋いで劉牢之の已に還じ、朝廷に備え有るを知らば、遂に走げ鬱洲に向う。八月、高祖を以て建武將軍、下邳太守と為し、水軍を領し追討し鬱洲に至らば、復た恩を大破す。恩は南に走ぐ。十一月、高祖は恩を滬瀆に追い、海鹽に及び、又た之を破る。三戰並びに大いに俘馘を獲ること萬を以て數う。恩は是自り饑え饉え疾いし疫いし、死者太半たれば、浹口自り臨海に奔ず。


(宋書1-8_暁壮)




ほぼ同時代に編纂された敵国の歴史書「魏書」にも劉裕の五斗米道との戦いは載っていて、アウトラインも割と一緒なのだが、このエピソードは省いてる。そして、たぶん魏書のほうが正しい。と言うのも海塩かいえん城のあったエリアから京口って結構遠い。ちょっと孫恩の京口強襲に間に合ってるとは思えない。


だいたい「勝ちに乗じて」って書かれてるってこた、おそらく孫恩の手勢は海塩を含んでいる沿岸部に散らばってるはずで、となると劉牢之ですら動けないでいた情勢下で劉裕が動けたとは思えない。


まー、だからこそ「動けた」ことにすると劉裕の英雄性が際立つんですけどね。


武帝紀冒頭の「劉裕さま英雄エピソード」については、いくつか盛ってる傍証が取れるだけに、まー話半分に聞いときべきだよなーって印象。

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