弟子曰く、師匠が働くのは当たり前らしい――③
「さて……では、リオさん? 私がこれからする質問に、正直にお答えしていただきましょうか」
「な、ナニニツイテデショウカ……」
正座する俺が目を逸らしながら答えると、目の前にいるサラがニッコリと微笑む。しかし、その目はずっと笑っていない。
いやー、恐いなー。気のせいか俺の身体が震えて……気のせいじゃなくて本気で震えていたね。冷や汗もダラダラだったよ。
でも、仕方ない。 怒ってる時のサラは世界一恐いんだからなっ!
なんて俺が心の中で叫んでるのを知ってか知らずか、サラはその微笑みを崩さずに話を続ける。
「もちろん、この手紙のことですよ。分かってま言ってますよね?」
「うぐっ……」
俺の視界に映るのは、さっきサラが読んでしまった俺宛ての手紙。すぐに、それから目を
ハハハ、ソウデスヨネー。ええ、分かってますとも!分かってますとも!!
ど、どうにかして言い訳を……いや、それは止めた方がいいな。
そんなことしたら、今度こそ
だからといって、俺が正直に話をしたところで、サラを怒らせることになるんだよな。だって、面倒だったからだし。
そうなると長時間正座付きお説教コースが……うん、それはそれで違う意味で辛い。脚が終わっちゃう。
ハハ、俺の逃げ道どこにもないなー。
「リオさん、大丈夫ですか? 急に顔色が悪くなりましたけど、体調が良くなかったのですか?」
「いや、この後の俺の運命に絶望してただけダヨ」
「なに
サラが呆れた顔でため息をつく。
だって、前も後ろも地獄なんだものー! 自業自得なんだけどさ!こんちくしょう!
「まぁ、体調が悪いのでなければ良いです。では、さっそく私の質問に答えていただきますよ。安心してください、質問はたった一つだけですので」
「あ、急にお腹のちょ……うん、ごめん。何でもないです。どうぞ続けてください」
「ええ、はい♪」
せ、背筋が凍るほどの冷たい目で見られたよ……俺の心臓が停止するかと思った。
「それでは、この手紙の最初の一文に書かれていた『最初の手紙から一週間』、の意味はどういうことでしょうか? 私は今日初めて見たのですが、前にも同じような手紙が届いていたのですか?正直にお答え下さいね?」
「…………キオクニゴザイマセンネー」
「リオ、さん?」
「じ、実は一週間前にも同じ内容の手紙が届いてました。でも、死ぬほど相手するの面倒だったのでサラにバレないよう処分してマシタ……」
「いや、なにをやってるんですか」
呆れたようにサラがため息をつく。痛い!俺を見てるサラの視線が凄く痛いです!
「でも、これは仕方がないことなんだ。俺を精神と肉体的苦痛から守るために必要だったんだから!だから、是非とも温情をですね……」
「駄目です」
ぐすん。弟子が冷たい。
はあ……このままお説教コースだろうなあ。今回は半日で済むといいけどなあ。あ、可愛い小鳥さんだー。
諦めの現実逃避をしていると、
「とはいえ、リオさんを怒るのは私も心が痛いです。なので、今回はしないでおきます」
思っていた予想とは違うサラの言葉。
どういうことだ? だけど、これは助かったぞ! 流石に半日以上の説教は身体と心が持たないし!
「いやぁ、助かった助か」
「その代わりに、リオさんには手紙の……いえ、
「ほへぇ?」
かなり間の抜けた声が俺の口から出た。
……はい? 今なんと? この俺が仕事をする? そのギルドから届いた手紙の?
「断固」
「拒否なんてことはさせませんよ。この仕事は絶対に受けてもらいますからね?」
なん、だと! 俺に拒否権が存在しないだとっ!?
だが、俺は絶対に労働なんてしたく……そうだ!ここは俺が仕事を出来ないことを証明しよう!そうすれば、サラも諦めてくれるはず!
「……サラよ。今まで怠惰に過ごしてた男がギルドの仕事なんて出来ないと思う。ほら、体力とか落ちてて動けないだろうし。むしろ、ギルドの仕事の邪魔にしかならないと思うんだよ」
「それは大丈夫かと。さっき私から逃げようとした時も問題なく動けてましたから。それと、指名ですから邪魔になるような内容でもないでしょう」
「クッ……い、いや、でもな? 魔法とか、ほとんど使ってないからブランクだってあるだろうし」
「さきほど、床に空いた穴を魔法ですぐに塞いでいましたが? それに、リオさんは日頃から魔法を使って過ごしてませんでしたか?」
…………うん、そうだね。よくよく考えたら、日頃から生活の方で魔法を使うからブランクないよね。まったく問題なく使えるよね。
これ、俺が働けることをただ証明してるだけじゃねぇか!!
ショックで膝から崩れ落ちる俺をよそに、サラは何故か嬉しそうに言ってくる。
「さぁ、それではリオさん!さっそく準備をしてギルドに向かいましょう!」
「か、代わりにサラが行くとかじゃ駄目なのかよぉ……」
「行かなければ……そうですね。昨夜、リオさんに襲われたと街中に言い触らしましょうか。ちょうど良く
「サラは鬼か!? そんなことしたら街民全員に殺されるのだが!?」
「なら、悪あがきなんてせずに諦めてください。それにです」
「な、なんだよ。それに、って……」
三度目の嫌な予感がしながらも聞き返すと、満面の笑みを浮かべたサラは答える。
「師匠が働くのは当たり前だと思いますよ?」
この世界は怠け者の師匠に対して厳しくないだろうか?
怠惰な賢者は『労働』から逃げれない! 葉劉ジン @haryu569arisu
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