第3話 ジャンケン

 2人きりの教室でやることがない私は、本を読んでいる風に何気なく喋りかける。

「ねぇー風その本面白い?」

 すると風は一言。

「うん」

 とだけ返事をした。

 そのまま沈黙が続いた。


「ねぇー風その本のタイトルなんて言うの?」

 とりあえず話題が欲しかったので、別に興味はないが本のタイトルを聞いてみる。

 すると風は一言。

「赤い花っていうタイトル」

 とだけ返事をした。

「ふーん」

 興味がないので一言返し、またもや沈黙が続く。


「ねぇー風」

 私がまた興味のないことを聞こうとしたタイミングで、言葉を遮るかのように風が喋りだす。


「さっきから何? 話繋げないなら本読ましてよ!」

 風は少しだけ怒っていた。


「だって風が全然構ってくれないから」

 私は風に縮こまりながら小声で語りかける、すると風は困った表情で私を見ていた。


 私はここしかないというタイミングで、上目遣いをして、無言の圧力をかけた。

 すると圧力が効いたのかはわからないが、風は折れてくれたようで、椅子を少しだけ浮かしてこちら側に近づいてくる。


「で? 私は何をしたらいいの?」

 まだ少し困ったような表情ではあったが、怒りは収まっているようで、いつもの優しい風に戻っていた。


 もう怒っていないことを確認した私は、風からしたら謎の提案をした。

「とりあえずージャンケンしよ!」

 なんでジャンケン? と疑問に思っている風に勢いでジャンケンをさせる。

「はいいくよー! 最初はグージャンケンポン」

 風も勢いには勝てなかったようで、手を出している風はグーで、私がチョキを出していた。


「はい、私が負けたから風に私のどこでも触っていい券あげる」

 そう言いながら私は、どこでも触りやすいように両腕を広げいく。

 その様子を見ている風の表情は、照れていた、顔を赤らめさせている。


 そんな風を体を少し揺らしながら急かす。

「早くー」

「いらないいらない、賞品とかいらないから!」

 風の照れ度が増していく、先ほどまでは少し赤らめるぐらいだったが、今はもう耳まで赤くなっている。

 私はもっと風を急かす、広げていた両腕を自分の前に持っていき、少し大きめの胸を両腕支えながら。

「風ー早くしてよー、どこでもいいんだよ」


「あーもうわかったよ」

 風はもうめんどくさくなったのか、私の肩に手を乗せた。

「これで触ったことになるよね?」

 これを待ってたと言わんばかりに私は、勢いよく喋りだす。


「うんなるよなるなる、それじゃあもう一回戦行くよ、最初はグージャンケンポン」

 風は驚きながらも今回も勢いに負け、手を出していた。

 風はグーで私はパーを出している、勝ったのを確認した私は、両手を上にあげ声を上げた。

「やったー勝ったー! それじゃあ風、両腕広げて」

 この時の風の表情は、困りつつも、怒りつつも、照れつつも、気のせいだとは思うが少し嬉しそうな感情が混ざっているような気がした。


 そんな風は今日はもう嫌だと言っても私が引かないとわかっているのか、案外素直に両腕を広げていく。

 両腕を広げおわったタイミングで、私が風の前に行くと、風がこれだけはという表情で。

「一箇所を一回だけだよね? 雪?」

 そんな条件をつけるつもりはなかったけど、風の表情を見たらここで、何箇所を何回でもいいとは言えなかった、私は一言。

「うんそうだよ」

 すると風の表情は少しホッとしていた。


 そんな風の表情を見ながら、私は風の後ろ側に回る。

 人差し指を立て、風の背中を上から下へなぞっていく。

「待って、待って」

 と風は言っているが、私は無視して背中をなぞっていく、もう少しで終わりというところで、風が。

「ああっ!」

 風が喘いでしまったタイミングで、私は指を止め風の前に移動する。


 風は息を切らしているが、このままだと何か起きると直感した私は、まだもう少し帰るまで時間はあるが。

「私今日はもう帰るね! 風も帰ろ」

 そう言いながら教室を出ようと移動する私の右手を何かが掴んだ、恐る恐る後ろを振り返ると、息を切らしながら私の手を思いっきり掴む風の顔が見えた。


 すると風は掴んでいた手を引っ張り、私の体を寄せ、耳元で。

「次のジャンケンで雪が勝ったら、雪の言うことなんでも聞いてあげる」

 そう呟くと勢いよく。

「最初はグージャンケンポン!」

 どれだけ勢いで言われても出す気はなかったけど、賞品に目が眩み物の見事に手を出してしまった。

 結果は、私がグーで風がパーを出している。

 恐る恐る風の顔見てみると、ニヤっとしていた。


 風は私に両腕を広げさせ後ろ側に回り込んでいく。

「風、さっきのことは謝るからさ、背中をなぞるのはやめてほしいなー」

 少し声を震わせながら謝るが、無意味だったようで風から。

「嫌でーす、やりまーす」

 小馬鹿にしたような言葉が飛んでくる。


 私は辞めさせるのを諦め、風の指が背中をなぞるのを待った。

 するとすぐさま、背中を指がなぞっていく、ただ私は声を出さないように耐えていた。

 私がなぞるのを辞めた位置ぐらいで、私はここで終わりだろうと、耐えるのを辞めてしまった。

 すると風の指はUターンをして、背中を下から上に上がっていく、私は思わず。

「ちょっと私さっきそこまでやって、ひゃっ」

 やってないでしょと言おうとしたタイミングで、喘いでしまう、すると風が。


「だって私さっき、一箇所を一回だけって確認したでしょ? これまだ一回終わってないよ」


 この子はー! と思いつつも指が背中をなぞっていくのに意識が削がれていく。

 あと少しで終わるというタイミングで。

「あうあっ!」

 喘いでしまった、そのあとすぐになぞっていた指は離れていく、なぜか少し寂しさを感じてしまう。


 そんなことよりも風を怒ろうと、辺りを見回す、するともう教室から出る寸前だった。

 風も気づいたのか、一言。

「雪も帰ろー」

 そう言いながら風は教室を出ていく。


 今考えると結局今回のジャンケン、私が負けても勝っても得しかなかった気がする。

 そんなことを考えながら風を追っていく。


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2人きりの教室 tada @MOKU0529

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