八角と神獣

掲示板の正面に短い通路があり、そこを抜けるとエントランスに着いた。


ここは来たことがある。


アイギス様が学園に入学された際にも、鞄を取りに来たことがある。

服や宝飾よりも、屋敷から多くの本をお持ちになられていた。

お部屋に運ぶのには骨が折れたが、他のご令嬢とは違って自己研鑽のために尽くされているわが主を誇りに思ったものだ。


3階まであるドーム型のエントランスは、骨組み自体は鉄と石や泥を液体化して固めたコンクリートで造られていて、錬金術と土魔法の融合で堅牢な造りになっている。


ドーム下の八角コーナーには、勇猛な鷲や吠える獅子、三つ目の烏、白狼など、八匹の神獣の石像が来るものを見下ろすように取り付けられていた。


八角、かつ神獣。


こちらもまた防御魔法陣としては最高の強度だ。



さすがは王国の最高学府といったところか。



その上の外壁には廊下同様真っ白な大理石のタイルが後付けされており、これは現王の趣味といえよう。


壁を軽く叩けば、コンコンと音がよく響く。



まあ、二年前とさして変わりはない。



四方に積まれた鞄の中から机一脚ほどの大きさの、茶革の鞄を一つ探し当て、寮長が待っている出口まで戻った。



「君、荷物はそれだけ?」


振り返った黒寮寮長は眉を僅かに挙げ、首を傾げた。

耳元で切りそろえられた髪がサラリと揺れる。

スッと細められた切れ長の目はきっと男女問わず多くの者を魅了するだろう。

どちらかというと、ご令嬢方が熱を上げそうではあるが。


彼女の耳元で輝く黒輝石の耳飾りによって、周辺の魔素の流れが阻害されているのを感じる。


魔素を抑え、髪を切らねばならないということは相当魔力が高いということだ。


そこまでの人物がいれば、私でも知っているはずなのだが。


黙ったままでいるのも、初対面の人間に対していかがなものかと思うのでひとまず応じることにした。


「はい」


「ならいいけど」


私も彼女も必要以上には喋らない質なようで。

外に出て噴水広場を突っ切って、渡り廊下を歩いて、校舎群から出て学園裏の森の入り口に来るまで終始無言だった。


かと言って、相手を警戒しているわけでもなく。

ただ無関心だった。


ピクリとも動かない口角と、輝きを失った瞳から読み取れることは何もない。


いずれにしても、珍しい。

典型的なご令嬢とは異なる点ばかり。



これは調べる必要がありそうだと思った。






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