瞬き

双子と話していて思ったことがある。



――何故、彼らと主従契約を結べなかったのだろうかと。



第一に私の種族は、主の素質を持った人間としか契約を結ぶことができないという厄介な性質を持っているわけだが、相手は仮にも公爵家の直系子孫。魔力量は十分なはずであり、性格の不和もそこまで感じなかった。


なのに、契約を結べなかったのだ。


契約を結んでしまえば、双子の守護獣として周囲にはカウントされるようになる。

魔力を悟られることなく側に居ることができ、一番手っ取り早い護衛手段だった。


異空間が引き起こしたエラーということも考えた。


しかし、あの時点で、私の魔力量は双子を超えていたのだから、その可能性は消えることになる。

魔法の源となる魔素は、その場にいる無機物または有機物のうち、最も魔力含有量が高いものに従う。



「何故」


仮説を立てようとしては打ち消し、仮説を立てて。

大雑把に人の気配は気にしつつ、人気の無い回廊を歩く。


橙色の西日が煉瓦のアーチをくぐって差し込んでくる。

夕焼けに朱が混じるということは、明日は珍しく雨だろうか。


所々アーチが途切れ、校舎の真ん中にぽっかりと空いた穴、もとい芝生が生えた中庭に出れるようになっている。

若草色の上を突っ切れば対岸にある階段までショートカットできる。


「廊下をこのまま進んでもいいのだが」


今日は空の下に出たい気分だった。


灰色の石から、青々とした芝生の上に左足を置くと、踵が少し地面にめり込んだ。

土の柔らかい感触。


アーチの影から、日の当たる地面へと足を踏み出す。


その瞬間、そよいでいた風が止まった。


ほんの一瞬。


頬で感じていた空気の温度も、妙な温さのまま固まった。



まるで時が止まったかのように。



「」


そのことに気付くと同時に、防御姿勢をとった。

反射的に、探索魔法を作動させる。



「誰だ」


低い声が出た。


懐剣に手が伸びる。


しかし、そこには誰もいない。



とりあえず、芝生から足を上げ、回廊に戻る。


壁に仕掛けは無いか確かめてから、壁を背にする。


「」


このまま固まっていても、新たに通行者が来たら、変な目で見られてしまう。


少し待ったが異変の正体は掴めなかった。

もしかしたら気のせいだったのかもしれない。


「まずは双子だ」


半身を解いて真っすぐ立つ。


もしかしたら、双子が危険に晒されているかもしれない。


今の私は公爵家の双子の護衛だ。

二人を守る責任がある。


そう思い、来た道を全速力で戻った。



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