貧乏くじ男、東奔西走

大福がちゃ丸。

貧乏くじ男

 あぁ、くそ! 何でこんな事になったのか。

 俺は、今、大手コンビニエンス・ストアに立てこもっている。

 事務所で息を潜め、音を立てないように、身を屈めて。


 大きなガラス窓には、店内の棚やらなんやらで、バリケードを築き、裏口も開かないようにしっかり打ち付けてある。


 昼間の明るい日差しの中、降ろされたブラインドに、時々映る外の影たち。

 うめき声を上げ、うろうろと、ゆっくりと動く人影。

 いわゆる ”ゾンビ” と言われてる奴だ。


「はぁ~」

 大きなため息をついて、昨日の夜の事を思い出す。


 そう、オレは昨日、店長の無理な頼みで、夜間のシフトに無理やり入れられた。

「やる事もないので」と了解したのはオレなのだが、まさか一人でやらされてるとは思わなかった。

 まぁ、他に人が居ればオレになんぞ頼みに来なかっただろう。

 日ごろから「君は接客に向いてない」とか嫌味言われていたからな。


 事件は、そう、夜中に起きた。

 田舎のコンビニでも、多少の人は来るのものだが、この夜はさっぱりだった。

 暇なのはいい事だが、どうも様子がおかしい、何と言うか……嫌な予感がした。


 ソレは急だった、店内に流れる音楽が消えるくらい大きな声が外でした。

 ハッとして見ると、今まさに女性が後ろからものすごい勢いで抱き付かれ、倒れこむところだった。

 俺は慌てて(客も居ないので)外に出たのだが、ソレを見て驚いてしまった。

 女性を押し倒したモノは、男の様ではあったが女性の細い手で必死に抑えられている顔は、目が白く濁り、顔色は青白く蝋のようで、真っ赤に染まってる口をガチガチをかみ合わせ、ヨダレと血を垂れ流し、女性に噛みつこうとしているのだ。


 女性は、大声でオレに必死に助けを求めていたのだが、オレはそれを無視して店内に駆け込んだ。

 それはそうだろう、女性とソレが来たであろう方向から、街灯に照らされた無数の人影が見えたからだ。


 オレは、ドアをロックし、ブラインドを下げ、バリケードを築き、電気を消し、息をひそめた。

 外では、叫び声に反応したソレどもが、哀れな女性に群がっていた。

 まぁ、叫び声もあっと言う間に静かになったんだがね。


 そして、一夜を明かし、今に至るわけだ。


 事務所で音を絞ってラジオを聞いてみたが、どうやら世界各地でパニックになっているようだ、特に都心部はひどいらしい。

 俺が夜勤に入った夜は、流星群が見えた夜で、その流星群が未知の放射能を、とか、未知のウイルスが、とかなんとか。

 要するに良くわかっていないらしい。


 あぁ、なるほど、リア充がキャハハウフフ流星群を見に行く割を食って、オレは夜勤バイトするはめになって、こんな事になったのか、くそめ。

 まぁ、そのリア充どもも、こんな事になっているのなら、今頃ヤツラの仲間入りだろう。


 逃げ出した方が良いのだろうか? いや、食料がある限り立てこもるのが正解な気がする。


 そんな事を考えていると、外に車がすごい勢いで入ってきた。

 そのまま、店のドアを車でぶち破ると、車から降りてきた人数は四人、野球バットやゴルフクラブなどを持っている。

「おい急げ! 早くしろ」

 騒ぎながら、店内の品物を車に積んでいく。


 オレは、事務所からゆっくり出て行き、声をかけた。

「おい! 何してるんだ!」

 そいつらは、びっくりしてこちらを向いた。

「おい! 脅かすんじゃねーよ! お前も生き残りか? ここの店員みたいだが、町はバケモノ共でいっぱいだ、お前も逃げた方がいいぜ」

 一人がそう言うと、また店内の品物を車に入れだす。


 うーん、もうこうなったら、店もクソもないんだが、なかなか腹が立つな。

 オレは、そいつらの一人の近くまで行く。

 オレの体が膨れ上がり、着ていた服がミリミリと悲鳴を上げる。


 ゴチャッ


 湿ったような固いような音がして、すっ飛んでいき、もう一人に当たり絡み合うように倒れこむ。

 あとの二人が、驚いて倒れこんだ二人の方を振り向く。

 オレは、そいつらの後ろから首を掴むと、思い切り力を入れる。

 ゴキッと鈍い音を立てて、首がくの字に曲がり痙攣し崩れ落ちる。


 最後の一人の方に歩いて行く、顔を削られた男の下敷きになっていた男は、悲鳴を上げて起き上がってきた。

「ひっひいいいい、お、お前何なんだ!」

 オレは、ソイツの目の前で手を広げると、ソイツの顔をむしり取る。


 声にならない悲鳴を上げて、のたうち回るソイツを見ながら、鎌のように曲がったカギ爪と水掻きの付いた手を振るい、血のりを払う。


「まったく……、お前ら人間どもは」 


 やれやれ、人間どもの調査なんぞと損な役回りを押し付けられたせいで、偉い事に巻き込まれた。

 オレは、ギョロリとした目だけを残し顔に適当な布を巻きつけ、安物の野球帽を目深にかぶると、馬鹿どもの乗ってきた車に乗り込んだ。


 さて、こいつらの車で海まで戻るとするとしよう。

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貧乏くじ男、東奔西走 大福がちゃ丸。 @gatyamaru

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