邪風景

安良巻祐介

 

 白けたような昼下がり。

 潰れた薬局の店頭に立っていたはずの、頭の大きい子供の張り子が、遠目に、ゆっくりと坂を上がっていく。

 汚れてへこみができた顔は、一歩進むたびにぐらぐら揺れているせいもあってか、表情がよくわからない。

 それは、坂の上の学校を目指している。

 今は昼休みだろうか。見上げた校舎からは、きれぎれに声が聞こえてくる。

 あれが辿りついたら、あの学校は…。

 校内放送でどんなことが流されるか、想像しただけでも、厭な気持になる。

 しかし、わかっていても、どうにもできない。

 どうせここからでは走っても間に合わないし、そもそも間に合ったところで、こちらが怖い目に逢うだけだろう。

 心の中で手を合わせ、それ以上見ないようにして、僕は、急いでその場を離れた。

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邪風景 安良巻祐介 @aramaki88

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