第26話 引き出しの多さをジャンルに生かすか、登場人物に生かすか、舞台やテーマに生かすか

私は時々引き出しが多いと言われるのですが、ほんとはそんなに多くないんですね。いろんなジャンルを書いているので、そう見えるだけなのです。


引き出しの多さとは知識量や特技が多岐、多様な分野にわたっていることを指しているわけですが、知識があるからといっていろんな分野を書くのはあまりよいことではないと思います(自戒の念を込めて)。それよりはひとつのジャンルでも、登場人物にいろんな専門家や特殊技能のある人、特殊な業界にいた人を出した方が話がふくらみ、味わいも出てくるでしょう。あるいはジャンルは同じでもその舞台となる場所や時代を自分の知識のあるところにしたり、テーマをそうしたりするのもよいでしょう。


逆に多様なジャンルの小説を書いていてもいつも同じテーマだったり、登場人物が似通っていると読者に飽きられてしまいます。業界の編集者のみなさんからもそれしか書けないと見くびられてしまいます。もちろん、売れていれば同じようなものをいくら書いても問題ありません。問題はそれほど売れていない場合です。


実は私のほとんどの作品は、「女が社会に復讐する話」です。それ以外はほとんどありません。引き出しのないことおびただしい。カクヨムに投稿している作品もそういうものが多いので、そういうのを書くのが好きとしか言いようがありません。みなさん大好きな『あたしが安全日を正確に計算するのは父が避妊をしないからだ。』と『成績優秀、スポーツ万能、無敵の美少女の妹がオレのうんこしか食べないんだが』もそうです。


さらにもうひとつ致命的な欠点があります。デビュー数年後にある編集者から指摘されました。


「一田さんの小説には頭の悪い人が出てこないんですよ」


目からウロコが落ちた気分でした。確かにその通りで、それでは物語が薄っぺらくなってしまいます。その後は気をつけて、頭の悪い人も出てくるようにしましたが、まだまだ登場人物の多様性は努力が足りません。


といった感じで引き出しの多さ=知識量や特技などを、「異なるジャンルを書くことに使うよりは、登場人物や舞台やテーマに広がりを持たせるのに使った方がよさそう」というお話でした。私のように一見引き出しが多いように見えて、実は全然少ない人もいるので自分でもチェックしてみるとよいでしょう。


とはいっても昨今は、似たような登場人物が出てくることが望まれることも少なくないので書きたいもの次第ではあります。

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