第10話 速筆の掟 実例『大正地獄浪漫』、『原発サイバートラップ』

実際にこのやり方で書いた例をご紹介します。


1.大正地獄浪漫(星海社) 装画 江口夏実先生

時は大正。帝国主義が台頭し大衆文化が華やいだ裏で、残虐非道・理解不能な怪事件が多発した鮮血の時代。

帝都を騒がすよこしまな犯罪者を取り締まるため集められたのは、元殺人鬼、人形女給兵団、地味すぎる異能者――猟奇思想犯<サイコ>を狩る超常的知能者<サイコ>たちだった。

内務省直属秘密組織「特殊脳犯罪対策班ゲヒルン」の美しくも醜悪な犯罪捜査活劇、ここに開幕!

【核】

実は最初にタイトルが浮かびました。その後、キャラを核に勧めようと決めました。執筆前から頭の中には、『鬼灯の冷徹』の江口夏実先生の装画があり、キャラクターのイメージもそれに沿って生み出されました。もちろん、この時には江口先生に装画を引き受けてもらえるとは全く考えていませんでした。

【シーン】

おおまかな全体の流れ(5巻完結を前提にしたあらすじ)を考えました。数行の雑なものです。

各キャラの特徴やおもしろさがもっとも出る事件やシーンを思い浮かべ、それをそのまま書きました。

『大正地獄浪漫』は登場人物のキャラが立ちすぎているので、どういうシーンがいいかすぐに頭に浮かぶんですね。

たとえば下記のようなキャラです。これだけキャラが濃いとエピソードや似合うシーンがいくらでも思いつきますよね。


片目金之助かため きんのずけ

【年齢】32歳(目安です。作中は年齢不詳) 11月生まれ。【身長】176cm

【設定】

猟奇犯罪を取り締まる「特殊脳犯罪対策班ゲヒルン」の班長。この世の物とは思えない美貌の持ち主。

任務遂行のためならゲヒルンの部下ですら平気で利用する残虐無慈悲な性格。

類い希なる頭脳で数々の事件を解決に導いてきた天才警部だった。しかし一般人と意思疎通を図ることができない問題を抱えている。一般人は十段階くらい思考を経ないと、片目の言葉が理解できない。その十段階の説明を飛ばすため、ほとんどの人間には理解できない。後になってその言葉の意味がわかって愕然とすることも多々ある。

意味不明の妄想を垂れ流すこともあり、言動には不可解さがつきまとう。

思想犯を取り締まる立場でありながら、自ら『癲狂新聞』という風刺とも耽美ともつかない新聞を発行している。

【特徴】

・包帯で目を覆っている。額の下半分から完全に目を覆うくらいまで包帯を巻いており、短い髪が包帯の上にかかっている。

・常にスーツを着用(尾行などの時をのぞき、銀色のスーツを着用)


氏家翔太うじいえ しょうた

【年齢】29歳。12月生まれ。【身長】158cm

【設定】

見かけは美少年、しかし中身は残虐非道で頭脳明晰な猟奇殺人犯。帝大を首席で卒業するほど頭脳明晰。卒業とほぼ同時に裕福な実家の資産を一人占めするため、両親と妹を惨殺する。母親と妹は監禁し、死ぬまで陵辱し、最後にその肉を食べた。

片目に逮捕されるが、その異常性を評価されゲヒルンに配属された。巻き毛と大きな瞳を最大限生かして無垢ではつらつとした少年刑事を演じているが、その正体を知る人形女給兵団全員からは嫌われている。皮肉屋。

【特徴】

・小柄で童顔(見た目は十代半ばくらい)

・茶色がかった巻き毛


蓬莱霞ほうらい かすみ

【年齢】18歳(作中は年齢不詳)。11月生まれ(本人は誕生日を知らない)。 【身長】162cm

【設定】

「惑いの蓬莱」という二つ名を持つ。異常な妖しさを放つ、女装の美少年。「人形女給兵団」四天王のひとりで、殺人を得意とする三番隊を率いる。幻覚を操る暗殺術を得意とする。武器は主に暗器と錐刀。第2巻で人形屋籐子謹製の銀昏錐刀を使うようになる。銀昏錐刀は長めの錐剣の見かけをしているが、鞭のように使うこともできる。

男娼として売られたところを片目に拾われた過去があるため、片目に陶酔している。どんなに理不尽な命令であっても、命を賭けて従う。

【特徴】

・おかっぱ頭

・病的な美しさで嫉妬深い

・口数は少なく言葉がきつい



2.原発サイバートラップ(集英社文庫)

韓国の原発がハッキングされ、放射性廃棄物をつり下げたドローン制御の気球が100基、空に浮かんだ。犯人の要求は「竹島の独立」。

韓国の日本海沿岸の原発が破壊されれば日本が最大の被害を受けるが、韓国国内の事件には手出しできず、要求内容から日本の関与も疑われている。

与えられた猶予は、48時間。疑心暗鬼の日韓にアメリカ軍需企業の思惑も交差する事件のゆくえは!? 現代を描くサスペンス!

【核】

トリックが核でした。本作は冒険物、国際諜報物として扱われることが多いですが、本格ミステリです。

このトリックは日本、韓国にまたがるため、群像劇にして、複数の視点を切り替えながら全体としてなにが起こっているかを描こうとしました。

【シーン】

主人公、日本の警察、韓国の原発職員、アメリカのサイバー軍需企業、犯人グループ関係者などバラバラに書けそうなところからシーンを設定して書いてゆきました。おおまかな事件の流れは設定しましたが、あとはプロットなしで個別の動向を書きました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る