「それもあるけど――」
時間はクーが
「クドーさんの
それが今回の戦いでエリックが目標としたことだ。
今回の戦いがクドーの<
「いや、大将。理屈ではそうだけどそれをどうやってやるかって話だぞ。あのコック勇者がどんな状況でスキル奪われたのかとか、その辺は『そういうスキル』を悪魔が持っていたで事足りるけどよ。
こっちは『そういうスキル』を持っていないんだぜ。普通に殴って倒しても、魂は天に帰るだけだ」
ネイラはエリックの案にそう言い放つ。エリックのやりたいことを否定するわけではないけど、あまりにも非現実過ぎたのだ。
「そうですね、ディアネイラ様の言う通りです。スキルの伝承は魂の完全転移により可能です。それは少なくとも人間の魔法技術では不可能。少なくとも、神か悪魔のレベル。ケプリでも不可能です」
「だけど、そうスキルはあるんだよね? 少なくとも、今回の騒動がクドーさんのスキルであるのなら、誰かがスキルを奪ったことになる。
クドーさんがこんな騒動を起こすはずもないし、技術的にはエンプーサもいる。仮説としては筋が通っていると思うけど」
エリックの言葉に、ネイラとケプリはしばし思案して頷いた。
「そりゃ……」
「あるでしょうね。それ自体は否定しません」
「なら、そのスキルを使わせる。向こうが吸い出そうとしていると言う事は、『魂に繋がる通路』が開いていると言う事だろうから」
無茶苦茶な理論だが、筋道は通っている。エーテルを得ようとするのだから、当然エーテルを吸収するための穴は開いていなければならない。だがそれは――
「そこを使ってコック勇者の魂を引っ張り出すってか?」
「理論上不可能ではありませんが、無茶です。それを為すには吸い取ろうとする
そんなのは――」
「できる。僕もクーも、そんな力で離ればなれになんかならない。
絶対にクーを離さない。クーなら魂を糸で絡めて引っ張ってくれる」
自信満々に言い放つエリック。
その言葉にネイラもケプリも唖然となる。しばし反論を忘れる。
「…………という感じなんだけど」
自分ではそんな大したことを言っているつもりはないエリックだが、あまりのネイラとケプリの呆れっぷりについ問い直す。間違ってな……よね?
実際のところ、無謀も無謀である。最初の理論である『魂が繋がっている穴』が見えなければアウト。魂を見つけることが出来なければアウト。糸で魂を掴むことが出来なければアウト。何よりも、クーの魂を吸う相手の力に対抗できなければアウト。
「
ケプリは額を手で押さえながら、静かにそう言い放つ。悪魔相手に、個人の持つ愛という感情だけを楔に挑もうとするのだ。魔術を知る者からすれば、大馬鹿と言われても仕方がない。
個人の感情と、数万の理論で構築された術式。世界を作ったとされる神に対抗できる悪魔。その術式に、ただ『愛している』という気持ちで挑むのだ。
「特に最後の理由は若干嫉妬しますが」
「そうだな。オレもさすがにムカついた。いや、文句はないぜ」
だが、ネイラもケプリも反論はなかった。だが、個人的な感情だけはしっかりと告げる。
その愛は、自分達にも向けられていると言う事は知っている。今はクーが対象だが、ネイラやケプリでも同様に信じてくれる。愛してくれると知っているから。
「それで、魂をあえて回収する理由はなんですか? <
この期に及んで、相手を殺すのに躊躇しましたか?」
「それもあるけど――」
◆ ◇ ◆
目に見ることはできないけど、確かに感じる二つの魂。片側がクドーのモノで、片側がエンプーサのモノだ。その違いは明白で、クーが結んでいる糸を通じてその力が流れ込んでくる。
(クドーさんのスキル……エンプーサのスキル……うん、全部理解できる。クーのスキルのように、全部を理解して自分のスキルのように使うことが出来る)
(使いたいスキルは……これかな。<
エリックはまずエンプーサの能力を使って、オータムの街の人全員を眠らせる。おおよそ三時間後ぐらいに目覚めるように設定し、見ている夢も『今街を襲っている赤騎士の襲来』にする。
(赤騎士騒動のことは『エンプーサが見せた悪夢』だったと思うように設定して……)
つまり今回の騒動は悪魔が見せた『夢オチ』にするつもりだ。荒唐無稽な出来事も、『夢』と言う風にすれば仕方ないと思うだろう。
ここまでやれば、今回の騒動でクーがアラクネだって気付く人はいないだろう。やりすぎかもしれないけど、念には念をだ。そして次が本命。
(クドーさんの<
<
そして肉体が『ある』なら魂は自然とそこに戻る。魂が孵る場所――クーは魔物だから地獄――に戻る力よりも、現世に『ある』肉体に魂は戻るのは道理だ。
『そうですね。
誤認であれ世界が『ある』と認識した肉体に魂が宿れば、<
ケプリにこのやり方で上手くいくかを聞いた時は呆れられたが、確率は高いと太鼓判を貰った。
「およ、もどったっぽい?」
「……お帰り、クー」
「ただいまー! 別に離れたつもりはないけどね!」
エリックの耳に届くクーの肉声。それが、エリックがこの戦いで得た最大の報酬だった。
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