「これで終わりだ」
宣言の後に、戦いは始まった。
客間は一瞬で糸で埋まり、それを切り裂く赤い鎌。
「あの赤い鎌は……!」
「ふむ。アラクネが近くに潜んでいるのかと思ったが……同化? 融合? そういうモノらしいな」
エリックとファーガストは、初撃で互いの戦力を推し量る。
ファーガストが振るう鎌は、エンプーサが使っていたものだ。血を凝縮して生み出された鎌で、ネイラのヘラクレスレベルの防具でようやく止められる業物だ。エリックが切られていないのは、クーの意図の弾力で緩和されたからに過ぎない。
そしてエリックがアラクネの糸を使うと言う事実も、ファーガストは理解していた。ファーガスト自身、
「クズの冒険者が私と張り合おうと言う事が愚かなことだと知るがいい」
「愚かかもしれないけど、退けないんです」
ファーガストは貴族として胸を張り、愚かな民を叱るように鎌を振るう。
エリックは貴族と冒険者の社会的地位の差を感じながら、それでも退くことなく立ち向かう。
『ここはカッコよく決めちゃおうよー。「お前の野望を止めに来た!」とか、「そのクズに負けるんだぞ」とかさー。あ、左からくるよ!』
『いや、そんなの僕が言えるわけないじゃないか。――ありがと、クー!』
脳内でそんな会話をしながら、部屋の中を飛び交うエリック。
<
対するファーガストは不動の構え。自らを拘束しようとする糸を赤い鎌で切断し、迫る打撃を<
(勝負は短期決戦)
(天秤のバランスを崩したものが、そのまま押し切れる)
交差しながら、エリックとファーガストはそれを理解していた。
片や戦えない蟲使い。片や戦いと縁遠い貴族。共に戦闘と言う経験が皆無と言っていい存在だが、拮抗するパワーの伝達がそれを伝えていた。
となれば――決定打を決めた者が先に勝つ!
「クズの冒険者には過ぎた力だ。だが私には
先に動いたのはファーガストだ。血の鎌を九つの頭を持つ鞭のように分裂させ、周囲を乱打する。威力を弱め、広範囲を攻め立てていく。
『こんなのヨユー! 隙間だらけじゃん!』
『うん。だけど逃げ道は限られた。機動性の高い僕等の動きを封じるつもりだ』
脳内のクーの言うように、それでも避ける事は不可能ではない。だけど移動事態に制限をかけられたことになる。跳躍するルートが絞られ、その先に――
『あっつ! って何か閉じ込められた!?』
『クドーさんが使っていた<
エリック達が跳躍した先に待ち構える様に熱した炉を召喚される。慌てて糸を飛ばして脱出するが、その行動を予測していたかのように血の鞭が打ち据える。地面に叩きつけられたエリックは衝撃で動きが止まる。
「これで終わりだ」
振り下ろされる血の鎌。それがエリックの腹部を貫く。<
「まさにピン止めされた虫のようだな。それでも生きているか」
「どうも。生きているんで抵抗しますよ!」
言って糸を放つエリック。ファーガストはそれを予測していたかのように避け、手にした鎌に力を籠める。
「成程、二種類のエーテル……。貴方の中に、アラクネの
鎌を通じて、エリックの状況を探るファーガスト。その言葉から、エリックはファーガストの鎌の特性を推測する。
「この鎌が……クドーさんのスキルを吸い取った要因なんですね」
「そうだ。<
もっとも、そのエンプーサ様も私が取り込んだ」
勇者と悪魔。その二つの力。それを誇示するファーガスト。
「生憎と……僕とクーも負けるつもりはありませんよ。貴方はただ力を取り込んだだけで、僕等みたいに協力はできませんから」
「足し算もできないのか、クズは。貴様はアラクネが一つ。私は
そもそもアラクネ程度の
言って、ファーガストは言葉を止める。
かつて冒険者だった一人の女性のことを思い出し、唇を震わせた。その後に、
「まあいい。どうあれこれで終わりだ。貴様はここでアラクネの力を奪われて、死ぬ」
言ってファーガストは<
勝敗は、決した。
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