「僕はね、怒ってるんです」
エリックとクーは、ニンジャマツカゼと
探す、と言っても時間はさほどかからない。マツカゼもアルフォンソもクーを狙っている。マツカゼは<
共に共通していることと言えば、この混乱に乗じて行動したいと言う事だ。ならば――
「マツカゼさん! アルフォンソさん! 僕はここに居る!
誰も邪魔されない場所で、決着をつけよう!」
「――良かろう。安い挑発だが乗ってやる」
出てきたのは、白衣を着た老人――アルフォンソだ。先のエリックの動きは見ていたのだろう。その距離と表情には怒りではなく緊張が走っている。
「見ていたのならわかると思うけど、僕とクーの魂は融合している。クーのスキルを使って、クーと同じことが出来る」
端的なエリックの説明に、アルフォンソは……眉をひそめた。
「いや、普通わからん。っていうか魂の融合とかいろいろな法則を無視しておるんじゃが」
「へ?」
「
その拒絶を起こさぬように押さえ込みながら、徐々に癒着率を高めていく。肉体ですらここまで手間がかかるのに、魂の融合とか。しかも時間はわずか? いや、ワシの常識から言ってありえんわ」
あー……そんなものかー。エリックはアルフォンソの説明を聞きながら頬をかいた。
『ケプリも怪訝に思ってたけど、これってそんなにすごいことだったんだ』
『びっくりびっくり。あーしもあっさり受け入れちゃったけど』
脳内でクーとそんな会話をするエリック。
「だが、受け入れざるを得んのじゃろうな。先ほどの武技は姫の糸によるものじゃろう。目的そのものはつまらぬが、稚拙と笑い飛ばす気にはなれぬ」
「……つまらない、ですか?」
「ああ、力があるのならそれを行使すればいい。あんな手間などかけずとも、冒険者もろとも糸で縛ってしまえばそれで終いじゃ。
今ワシと話をしているのもそう。問答無用で縛り上げてしまえばいい。貴様が吹っ切るきっかけとなるのなら、ワシは喜んで戦って散ろうぞ」
アルフォンソがエリックの誘いに乗ったのは、それが目的。
クーがエリックと同化しているのなら、エリックに力を振るってもらえばいい。クーがいない以上、妥協点はそこだ。
「貴様自体は気に入らんが、姫の力を有しているのなら話は別。貴様を介してアラクネのすばらしさを世に喧伝できるのなら、まだ我慢できる」
「悪いですけど、僕はそんなつもりはありません」
「そうか。分かってはいたが、貴様は徹底的に臆病者だったな」
そんな挑発に似たアルフォンソの言葉に、エリックは胸を張って肯定した。
「はい。魔王とか英雄とか、僕には無理です。僕は誰かを救う冒険者でありたいんです」
「それを担うのが、勇者や英雄なのじゃがな。そしてその為には力が要る。貴様が持つ力は、英雄や勇者に匹敵する者じゃろうて」
「や。
『かまどの勇者』のことを思い出し、目を逸らすエリック。あれはちょっと理解の外の相手だ。
「でも、力があるから英雄なんじゃない」
戦いの合図を告げた瞬間があるのなら、この言葉だろう。エリックもアルフォンソも、同時に思考を動いていた。
「誰かを助けたから、英雄と呼ばれるようになるんだ」
――勝負は、一瞬で決まった。
エリックの指先から出た細い糸が、周囲に待機していたアルフォンソの
アルフォンソが命令を堕した時にはすでに、全ての
「……見事じゃ。これでワシの策は全て潰えた。手勢の
「これが、本気を出したクーの力だ。糸を使って周囲を調べ、その後に強度の高い糸で動きを封じる。アラクネモードのクーの強さを前に、待つ戦略は意味がないんだ」
ここまでは予定通りだ。アルフォンソが自分に似た『何かに命令する』系列のジョブであることは知っている。そしてクーの能力を完全に把握すれば、その相性の悪さは嫌でも理解できる。
なのでこの展開は予定調和だ。
「っていうか。クーが強いのは知ってたくせにわざわざ挑むとか。そんなことしても無意味だって知ってたくせに!」
『え、エリっち?』
突然叫ぶエリックに、脳内のクーは不意を突かれたようになる。
「何が姫だよ! クーはそんな名称で呼ばれるヒトじゃないから! 嫌元々ヒトじゃないんだけど、そう言う種族的な意味じゃなくて! そんな高根の花とかからはかけ離れてるんだから!」
「お、おう……。な、なんじゃ、どうした?」
だからここからが、本当の勝負だ。
「僕はね、怒ってるんです。
僕を差し置いてクーのことを知っているとか、そんなのふざけるなって話だ! この剣に関してはしっかり決着つけてさせてもらうから!」
『え、エリっちブチ切れてる!? しかもそんな理由!?』
そう、共にクーと言う女性を求める男性同士の、本当の勝負。
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