「蟲使いだからできると思った」
エリックが冒険者と共に赤騎士と戦っている間、ネイラは別の赤騎士の部隊を攻撃していた。
「おりゃあああああああああああ!」
気合と共に赤騎士達に突撃し、
『聖人としての言動を保ってもらわないと、【
「ちったぁ、見逃せ! 相手は悪魔の先兵だ。名乗って礼儀を尽くす義理はねぇ!」
同期しているヘラクレスの言葉にそう返し、ネイラは赤騎士達を攻め続ける。感触としては鉄の鎧を殴っているのに等しいが、その中身がないため一打ごとに派手な音が鳴っていた。
「弱い弱い。むしろ退屈だぜ! もう少し骨のある奴はいねぇのか!」
『繰り返すが、聖人としての言動を――』
「ツケは後で受けるから、今は見逃せ!」
ツケ、と言うのは【誓い】の条件を無視してヘラクレスの恩恵を受けた後の、ペナルティである。以前も【誓い】を無視して動いた結果、リバウンドでものすごい疲労が襲い掛かってきたことがある。
「以前は、そんな融通も利かなかったのにな。大将がヘラクレスに干渉してから融通聞くようになりやがった。……まあ、ツケはきついけど」
数十年単位でヘラクレスと共に戦ってきたネイラは、この変化にひそかに舌を巻いていた。融通の利かない
『不服だが、その方が効率がいいと判断した』
「前まではそんな考えすらしなかったもんな。誓いは大事の一点張り。神の力の一端を操るのだから、制限があって当然だって!」
『当然だ。私の力は軽々に振るっていいものではない。ましてや
ヘラクレスは
だがエリックは以前、ヘラクレスを纏ったことがある。しかも武術大会と言う世界の正義とはかけ離れた戦いで、だ。実際にその力を振るって誰かを傷つけたわけではないが、それでも
「虫、ってだけで
蟲使いだからできると思った。
そんな一言で神が聖人に授けた遺産を使用したのだ。それがどれほどの意味を持つのか、当のエリック・ホワイトは理解していない。そしてネイラはその意味を理解しながら、それ以上の疑問を持たなかった。
「オレは大将に惚れたんだ! だったら何があっても気にしねぇ!」
『感情面は理解の外だが、行動理念は理解した。それが世界に敵対する行為でないのなら、手を貸そう』
「ま、反対しても大将にヘラクレスを弄ってもらって戦うだけだ。地の果てだろうが天の先だろうが、突き進むのみ!」
『
ネイラはそのまま突き進む。エリックの為に、仲間の為に。
ここで赤騎士を留めて、街の被害を押さえる事がエリックの望みなら、たとえ聖人としての意――悪魔を退ける事に背くとしても構わない。
「その辺は、大将が何とかするさ! 行くぞ!」
◇ ◆ ◇
「ブロックE6、赤騎士の反応、土壁展開。ディアネイラ様の元に誘導します。
ブロックD7、赤騎士と数名の生命反応。炎を展開し、赤騎士を除去」
ケプリは道の真ん中に立ち、焦点が合わない瞳で空を見ながら、呟いていた。
踏みしめた足元から感じる振動。土のある限り、そこはケプリの領域。そこから伝わる情報を受け取り、同時に熱感知で相手を識別する。街すべての情報が、土と熱を通じてケプリに伝わっていた。
「
マツカゼ様はケプリの探査方法を知っているようで、大地を離れて体温も消しています。おそらく水場に入って体を冷やしたかと。……はい、流石は
そしてその情報を<
(作戦は順調。そもそも戦力的に敗北する要素はありません。それだけ、
ケプリは今のエリックの状態を思い出す。人間と魔物エーテルの融合体。しかもエーテルは元の状態を維持しているのだ。
通常、死ねば
だがエリックはそれを無視した。自らを強化し、同時に死さえも無視した。
「蟲使いでできそうなことをやってみたんだけど」
蟲使いだからできると思った。
そんな一言で神の定めた法則を無効化し、融合させたのだ。エリックがその気なら、世界中全ての『虫』の魂を自らと同化できる。一寸の虫にも、とはいうがその数とそれらが保有するスキルなどを考慮すればどれほどの強さを得ることが出来るのか。
(規格外、にもほどがあります。もしかして、
……いいえ、だとしても意味はありません。ケプリは
一度瞑目して自分のやりたいことを再確認し、そして目を開く。
その頃には、ケプリの中にあった迷いは消えていた。
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