「ん、出来るよ」
『クーの持っているスキルなんだけど……』
融合しているクーに脳内で語りかけるエリック。うんうん、と頷くクー……厳密にはクーには肉体がないので、そういう雰囲気を察したエリックは言葉を続ける。
『<
『ん、出来るよ。糸で手足縛って動かしたり、神経を通して脳に電気信号送ったり。本人が出来ない事はできないけど』
クー曰く、人間を人形のように操って戦わせたり、スキルや魔法を無理やり使わせることもできると言う。その場合、スキルランクは<
一見便利に見えるが、
『ぶっちゃけ、あーしが殴った方が強いし早いし。本当に強いヤツは糸を千切ったりしてくるし。なんであまり使わない』
というデメリットもあると言う。状況的に『強くない人や集団を無理やり戦わせる』時にしか使えないのである。<戦女神の呪い>で集団に属せないクーからすれば、意味のない使い方なのだ。
『エリっちを無理やり動かそうかなぁ? とか思ったけど、なんか違うし』
『あははは……』
そんなことを言うクーに、笑って言葉を濁すエリック。
『あ! エリっち今あーしに支配されるのも悪くないかも、って思ったでしょう! やー、エリっちえろえろー!』
『やめて! 心読まないで!』
『うへへへー。融合しているんだから心の中、読みたい放題だもんね。
……あれ、ってことはあーしの心も読まれてる……?』
『…………うん。その、クーも言いながら僕に支配されるのもありかなー、って思ってるのがバッチリと。一日中アレコレされたいとか』
『にゃあああああああああああ! ああああああ、違っ、その! 違わないんだけどっ、うわあああああああん!』
赤面してのた打ち回る――繰り返すけど、肉体がないのでそんな雰囲気のクー。
その後、互いにこういうことは気付かないふりをしようという紳士協定を結んだ後に、本題に入った。
『よーするに、あの冒険者達? を操って戦わせるの? おけおけ。ヨユーよ』
『うん。そうしながら僕もあそこで戦う。一緒に操られているように見せかけて』
『なんで? エリっち、そーいうの好きじゃないじゃん。あーしの<
『うん。「冒険者と一緒に操られているから、エリックは強く見えた」……と思わせれれば、少なくとも冒険者仲間からアラクネに対する疑いは消せるかな、って思って』
エリック達が今オータムシティを襲っている脅威に対抗することは、容易である。
エリックがクーと融合して得た力。これを用いれば単独で撃破は可能だろう。
だがそれをすれば、ケプリの指摘通りエリックは人間には過剰な力を持っている存在として疎まれることになる。ましてやそれまで虐げてきた蟲使いという存在だ。いつその力をもって意趣返しを行うか不安でならないだろう。
『僕はそんなつもりはないけど、そう思う人がいないとは限らないからね』
『ふーん……。あーしはエリっちが褒められる方がうれしいけど』
『クーやネイラやケプリが褒めてくれるから、十分だよ』
『もー。欲がないだからエリっちは。男の子なんだから夢は大きく持たないと』
『僕にとってはクーに褒めてもらえるのは一番うれしいし、満たされるんだ』
『ああ、もう! そう言う事をサラッと言うのがもう! そういう所だからね!
とまれ了解! ちゃっちゃとやって次行こう! やることたくさんあるんだから!』
そして冒険者達が戦う現場に向かうエリック。
苦戦する冒険者達に乱入するように赤騎士に殴り掛かり、同時に糸を放って冒険者達を操作する。事、エリックの戦術眼はクーやネイラやケプリが認める所でもある。適材適所に人を割り振り、適切なタイミングで突撃と撤退を繰り返す。
「よっしゃー、勝利だ!」
「うおおおおおおおおおお!」
そして冒険者達は赤騎士の一軍を押し返す。すぐに新たな軍勢がやってくるだろうが、一時的な猶予を手に入れる。その間に大規模な治癒魔法などで戦力を整え直す。
だが、疲弊は激しい。ダメージも軽くはなく、何よりも無理やり体を動かされた疲労感がある。
「おい、エリック。大丈夫か?」
「…………無理、です。っていうか、僕はどうなったんです? 体が勝手に動いて……あいててて」
無理やり体を動かされた者は、筋肉疲労がたまっていた。普段から体を動かす戦士系ジョブならそれほどではないが、蟲使いのような身体能力の低い存在はその反動をまともに受けていた。
――まあ、エリックは筋肉痛のふりをしているだけなのだが。
「けっ、あの程度の運動で使えなくなるとかザコが」
「あはははは。カインはまだ戦えそうだね。頼もしいや」
「当然だ。俺はこのオータムを救う英雄だぞ。ザコは引っ込んでろ。その情けないさまをお前の女達に伝えて、俺が寝取ってやるから安心しな」
そんなことを言われながら、後方に撤退するエリック。冒険者ギルドに戻ります、と言って戦線離脱し、そのまま路地裏に隠れる。
「だいたいこんな所かな。これで何かあっても『いや、あのエリックに限ってそれはないわ』って流れになると思うけど……」
『自らのジョブの悪名を利用するとは、流石は
『大将がそれでいいならオレは何も言わねぇけどな。あ、建物が崩壊してあの精霊ヤロウが巻き込まれても事故だよな』
<
エリックは半笑いしてそれには何も答えず、次の目標に向かう。
裏社会に通じるバステマニアニンジャ、マツカゼ。
多くの
この二人を探すべく、エリックとクーは動き出す。
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