キャンペーンミッション!『オータムシティを開放せよ!』(難易度ランクA+)

「これで、どうにかなる……かな?」

「くそ! 倒しても倒しても新しいヤツがやってくる!」


 冒険者と赤騎士の戦いは、少しずつ冒険者側が押されつつあった。

 個人の戦闘能力はCランク冒険者のカインが赤騎士に比べてわずかに秀でているぐらいで、それ以外は一対一で勝つことは難しい状況だ。


「ギルド長の『支援』はどうなった!?」

「知らん! 機能はしているんだろうが、こっちの戦場には届いていないって事じゃないか!」

「さっきまではその『支援』のおかげで楽勝だったのに!」


 赤騎士と切り結びながら叫ぶ冒険者たち。

 ギルド長の『支援』――端的に言えばクーやネイラやケプリが赤騎士に攻撃をしていたことだが、クーにまつわるトラブルでそれが途絶えていた。エリックが背中を刺された時点で完全に止まり、赤騎士の勢いが息を吹き返したのだ。


「マズイぞ、前衛突破される! お前戦闘スキル持ってんだから前に出ろ!」

短剣ダガースキルだとあの甲冑に刃通らないんだよ! って言うか盾持ってるオマエが行けよ!」

「この盾は魔術儀礼用なんだよ! あんな剣受けたら、一発で割れちまう!」


 そして冒険者達の弱点は、互いの連携不足にあった。

 冒険者はパーティを組んで戦うこともあり、気のしれた相手同士の連携は上手くいく。……というよりは、気の合う者同士としか一緒に戦っていない。

 その為、50名を超える部隊となるとその連携は機能しない。普段顔を合わせない人間と一緒に戦うのである。連携を取るどころではない。互いの得意分野を理解する間もなく戦いに投じているのだ。

 指揮官、あるいはカリスマ性の高い存在がいればそれに引っ張られる形で持ち直せるのだが、いかんせんそこまでの人材はいなかった。どうにか気の知れたもの同士の連携で持ちこたえているが、10人×5の連携と、50人の一致団結では群としての質は大きく異なる。


「なんなんだよこいつらは! こっちが弱い所を的確についてくる!」


 そして赤騎士はまさに統率された群だった。一糸乱れぬ連携で列をなし、傷つけばそれを予期していたかのように予備兵力と入れ替わる。集団でありながら一人の個体であるかのように動いている。自由意志などなく、何かに従うかのような魔道具じみた動きだ。

 ――まるで、自由という存在を憎み徹底的に排除するように。


「ここはもうダメだ! 撤退するぞ!」

「いや、まだやれる! もう少し堪えれば<火炎球ファイヤーボール>が――」

「この乱戦の中にそんなもの撃ち込む気かよ! 前衛下がれ!」

「待て待て! まだ呪文の詠唱は――!」


 冒険者側は一事が万事、この調子である。これで勝ち目があるなど、誰が思おうか。

 赤騎士を留める壁としては機能しているが、勝算がないのは誰の目にも明らかだ。しかし彼ら以外に今ここで戦える人間はいなかった。


「くそ! オレは二度街を救った英雄なんだ! こんな所で負けるはずがない!」


 最前線で精霊が宿った剣を振るうカインも、敗戦濃厚の状況を理解していた。自らに従う女性達は既に疲弊している。カイン自身も複数の赤騎士を前に息絶え絶えになりながら耐えている状況なのだ。


「――ん?」


 霞む視界の中、カインは一人の男を見る。自分より背が低く、ひょろっとした男。いつそこに居たのかはわからないが、整列する赤騎士の中で寸鉄帯びることなく戦っている。

 エリック・ホワイト。

 戦えない蟲使いとして有名な、今までザコと罵っていたあのエリックが。


「クソ、幻覚か。あのエリックが赤騎士コイツラ相手に無双しているなんてありえねぇ」


 カインは否定の言葉を放ち、他の冒険者も同じようにありえないと思っていた。

 だが、それを幻覚ではない。赤騎士の陣を乱すようにエリックは素手で暴れているのだ。


「なんだぁ? どういうことだ――うぉあ!?」


 訝しむ冒険者達だが、突然体に小さな痛みが走ったかと思うと体が勝手に動き出す。手足はまるで、誰かに操られているかのように陣を組み直す。


「なんだこれは!? 体が勝手に動く!」

「お、おれの身体はどうなっちまったんだ!」

「抵抗できない!? まさかここに居る全員、同じような状況なのか!?」


 冒険者達は突然のことに驚きながらも、戦闘と言う状況の中で事態を理解していく。

 自分の意思で体を動かすことが出来ない。操られているように戦うが、しかし戦果はこれまで以上だ。振るわれる武器もまるでBランククラスであるかのような威力を持っていた。


(嘘だろ!? これ、俺自身が戦うよりも強くないか!?)

(っていうか、あいつと肩を並べる時はこうするのがいいのか?)

(最初は敵の術なのかと思ったが、これは――そうか、これがギルド長の『支援』なんだな!)


 劣勢に陥っていた冒険者達はこの『支援』により息を吹き返す。

 冒険者全員が操られるように戦いながら、しかしその特性は生かされる。武器が得意なものはその間合を維持し、魔術を放つタイミングで散開する。足りない部分を補完し合うように、冒険者達は戦線を維持――そして押し返していく。


(これで、どうにかなる……かな?)


 そんな状況を見ながら、唯一自らの意思で動いているエリックはそう判断する。

 

『エリっちー。次はどうしたらいい?』

『うん。右側が突破されそうだから、そっちに人を割り振って』

 

 脳内でクーと会話をしながら、エリックは赤騎士に<怪力ストレングス>で強化された拳を振るっていた。

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