蟲使いとオータムシティ

キャンペーンミッション!『オータムシティを開放せよ!』(難易度ランクA+)

「冒険者……?」

 オータムの街に惨劇が起きる。

 街中に突如、騎士が現れたのだ。血を思わせる赤い鎧の騎士。それはオータムの国防騎士を次々と切り裂いていく。そしてその傷口から流れた血液が鎧となって、赤騎士は増えていく。

 元あった騎士の身体は消失し、中身のないがらんどうの赤鎧が出来上がる。。それらは無言で剣を振るい、次々と人を殺し始めた。


「なんだこいつら!?」

「お、襲い掛かってくるぞ! 逃げろ!」


 何事かとと理解する余裕を与えず、惨劇は街へと広がっていく。赤騎士に逆らおうとしたものはすべてきり伏せられた。騎士でない者達はそのまま血に伏し、躯と化す。人々は恐怖におびえ、逃げ惑う。


「おい、逃げられないじゃないか……!」

「外に出る門には全てあの赤いヤツがいるぞ!」


 街の外に出ようとしたものは、町を守る門に居た赤騎士に阻まれて引き返すこととなる。逃げ場を失った街の人達は絶望に足を止める。そんな彼らの脳に直接声が響いてきた。


『愚民共よ。穢れた血を持つ半端者達。汝らに生きる資格はない』


 それが魔術スキル的な物であることは誰もが理解できるが、どのような魔術原理なのかは誰も分からなかった。『人間の血』を媒介にして同じ人間のみに聞こえるようにした血液魔術。それを理解している存在などそういるはずもない。


『命惜しくば税を捧げよ。一日生き延び猛れば――』


 声が告げる税額は、普通の人ではとても納めきれないものだった。罵声をあげようにも、赤騎士の不気味さと暴力に逆らう事はできない。


『愚民共の才で払えぬことは理解している。故に慈悲をくれてやろう。

 人間の心臓一つ。それで一月を生きる権利をくれてやる。己のモノでなくとも構わぬ。他人から奪い、捧げるがいい』


 あまりと言えばあまりの言葉だ。生き残るために人を殺せ。そう言っているのだ。

 だが、追い込まれた人間に倫理や常識など存在しない。自分が生き残るために、大事な家族を守るために。その為になら人を殺すことなど厭いもしないモノだって存在する。


「やめろ、やめてくれー!」

「おい、おちつけ! こんなのおかしいだろう!?」


 一人が動けば、誰かも動く。動かなければ、殺される。そんな状況がパニックをさらに加速させていく。

 僅か半日でオータムの街は狂っていく。それは少しずつ加速していくのであった。


◆       ◇       ◆


「オラオラオラァ!」

「俺達『アックスブラザーズ』の斧捌きを見せてやらぁ!」

「冒険者ギルドはまだまだ受け入れ可能だ! 身を守りたいものは早くこっちに逃げるんだ!」


 斧槍ハルバードが振るわれ、手斧が飛び、斧二刀流がうなりをあげる。

 斧を振るう三人の男達。義兄弟ではあるが本当に心通った兄弟のように連携だって赤騎士を退ける。個人戦闘力としては赤騎士に劣るが、三人集まった時の強さはそれぞれの弱点を補っていた。

 彼らは冒険者ギルドに人を呼び寄せながら、町を進む。『アックスブラザーズ』が進軍し、安全を確保して防衛線を形成する。そうやって少しずつ領域を広げていた。


「この黄金の鎧にかけて、皆様の安全は確保いたしますわ!」

「流石お姉様! ええ、我々『タンクタンク』の守りは正に鉄壁。如何なる刃も魔も、我らの前には無力と知るでしょう!」


 金と銀の鎧を着た二人組の女性。『タンクタンク』と呼ばれた冒険者チームだ。彼女達は赤騎士に襲われている人達を助け、そして安全な場所に導いていた。圧倒的な防御力を持つ二人組の金属鎧チーム。その防御力が今、町の人達に披露される。

 純粋な金属鎧の防御力と、盾を使った<受け流し《パリィ》>スキル。魔法攻撃すら受け流す『タンクタンク』の動きは、正に拠点防衛にこそうってつけとなる。正に独壇場だ。


「冒険者……? 助けてくれるのか?」

「商人の護衛にしか役立たない奴らが、俺達を? わ、悪いけど金はないぞ!」

「安心しなァ! 今日は無料奉仕ロハだ! うちのギルド長が金出してくれるんでな!」

「そういう事情ですので存分に守らせていただきますわ! ……恥ずかしながら<金城鉄壁ゴールデンガード>スキルの魔術媒介は安くありませんので!」


 街が完全にパニックに陥る前に――まるでその事を予測していたかのように――冒険者ギルドは動いていた。

 ギルド長が街に残ったギルド員に伝達用の小鳩を召喚して手紙を送ったのだ。そこに書かれた内容は、彼らへの依頼。『緊急依頼! 街の人達をギルドに誘導せよ!』という内容だった。依頼料とは別に、防衛にかかる費用は後に支払うという文言をつけて。

 そういった金銭的な援助もあるが、


「こういうシチュエーションはまずないからなぁ! 英雄様みたいで胸がわくわくするぜ」

「違いない! ホワイトの虫坊主は『困った人を助けないと』とか言ってたが……やたまにはこういうも悪くねぇな!」

「そのムシ君は今どこにいるか知らないけどね!」


 体を張って他人を助ける。そんな状況に胸躍る冒険者達。

 普段は金銭中心で動き、無償や損得抜きで他人を助ける無力な蟲使いを酒のアテにするところはあった。決定打となったのはやはり金銭のサポートなのは間違いない。


「どんどん来な、赤いの! 冒険者魂見せてやらぁ!」

「お前ら急げ! ギルドに行けば食い物もあるぞ!」

「大盤振る舞い、行きますわよ!」


 だが彼らは間違いなく、町の人達を助けるために動いていた。

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