「ホワイト様は無事と思いますか?」
「これで全員分連絡が終わったね」
「はい。今護衛中の5パーティとホワイト様以外の全員に連絡済みです」
「今のうちに地下室を開放してスペースを開けておこう。治療魔術が使えるメンバーには今のうちに休憩を。これから忙しくなるからね」
「現在収容数七十八名。このままでいけば地下室を含めて二時間で収容限界です」
「仕方ない。倉庫を壊そう。どの道今回の件でいろいろ資産を売り飛ばさないといけないし」
冒険者ギルド長と、その事務員ヴィネはひっきりなしに動いていた。ギルド長は召喚した
街の異変を察したヴィネは、即座にそのことを報告。逃亡経路を確保しながら『かまどの勇者』の力を持つ者が街の支配に乗り出したことを察していた。
「そろそろ私の魔力も尽きそうなんだけど」
「ですね。金庫にある指輪に蓄積した魔力を開放すればもう少しはいけるはずです」
「隠していたへそくりなんだけど、あっさりバレてたのね」
「どの道使う予定だったのでしょう。つまらない会話です」
「その会話こそが大事なんだけどね。情緒というヤツさ」
「悪魔には不要です」
口多いギルド長と、効率を求める悪魔。
だが不要と言いながらも、召喚主の言葉に応えてしまうヴィネがいた。
「……ホワイト様は無事と思いますか?」
そんなヴィネの方から報告以外の会話が出るのは、稀なことだ。
「おや? まさか君の口から彼の名前が出るのは意外だな。思わず嫉妬しそうだ」
「そういう類ではなく。単純にこの状況をひっくり返せるのは彼だというだけです」
「普段は万年Eランクと評価するのにかい?」
「彼にはアラクネと森の聖人と元太陽神がいます。純粋な戦力としてカウントすればかなりのモノです」
「確かに。少なくともあの赤騎士程度では相手にならないだろう。
だが、彼の真価は連れているモノの強さではない。いや、それも一つの強さだが、それだけではただの
ギルド長は金庫から指輪を出し、それを握りしめながら言葉を続けた。
「彼の真価はけして諦めない。そのしぶとさにある。最後の最後まで頭を回し続けようとするその生存力。底辺を味わったからこその諦めの悪さがある」
「……一時とはいえ貴方が育てた人間なのは知っています。ですが一つ思い違いがあります。
召喚されて召喚主に絶対服従の悪魔は、その絶対服従の鎖に痛みを堪えて抗い訂正した。
「彼が生きたいと思う理由は、もっと単純で人間じみています」
ヴィネは静かに告げた――
◆ ◇ ◆
『
ホーガンの連続スープレックスが赤騎士に叩き込まれる。
筋肉を誇示するようにしてポーズをとる
「さあ、早く逃げるがいい! この場はこのオータム武術大会優勝者、ホーガンが引き受けた!」
「すまない!」
「良い。鍛えられた肉体が誰かの役に立つ時が来ただけだ!」
胸筋を叩くようにしてホーガンが笑う。この状況でも見せる笑顔に、町の人達は安堵する。
「ふははははは! 来るがいい街を脅かす赤騎士共! どれだけ刃を重ねようが、この筋肉を貫けぬと知れ!」
「全く。全てを筋肉だけで解決するなんて。これだから
「でも後衛職からすれば頑丈で強い前衛は嬉しいわね」
そんなホーガンの背後から話しかけるのは、
「では
「言われなくとも――!」
挑発に乗ったわけではないが、アリサは体内の『龍』を開放し、身体能力を強化する。肉体が僅かに発行し、薄い膜のようなモノが形成された。維持し続ける限り身体能力を増す『龍』の力。
地面を蹴り、赤騎士に迫るアリサ。赤騎士が剣を振り上げると同時にしゃがみこみ、赤騎士の足を刈るように大きく足を払う。バランスを崩した赤騎士の胴に拳を叩き込み、鎧を通して衝撃を伝えた。『龍』の身体強化と卓越した格闘技術。それがアリサの神髄だ。
「じゃあこちらも。
カーラは手にした香炉に魔力を込める。既に薬草を入れておいた香炉に火がともり、煙が魔力の風に乗って運ばれる。煙を使った広範囲の
カーラの命令に従い、風の精霊が香りを運ぶ。味方のアリサとホーガンには高揚による
「カイン様に任されたから、しっかり護らないとね」
「あの毒使いの子供を連れて行ったのは嫉妬するけど、信頼には答えないといけないわね」
「オータムの英雄カイン・バレッドか。英雄色を好むと聞くが、なかなかの男のようだな。一度クロカブトと戦わせてみたいものだ!」
「「……誰それ?」」
「うむ。かの武術大会に出ていた男で――」
冒険者達は赤騎士から街を守るために、培った
今はまだ攻勢だが、限界はある。その限界が来れば、退かざるを得まい。
対し、赤騎士はいまだ健在。原理は不明だが、国防騎士の数だけその数は増え続けると思われている。
彼らが稼いだのは、僅かな時間。街の滅びをほんの数時間遅らせた程度。
その数時間と言う猶予の隙間に、エリック・ホワイト達はオータムに帰還していた。
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