「おはようございます!」

「わかりました! エリック・ホワイトさんには罪はありません!」


『かまどの勇者』クドーは満面の笑みでそう宣言する。

『キングオークカツ丼』は心にやましいことがあると、それを自白してしまう料理だ。エリック自身が罪と思ってなければ、それは罪にはならない。

 酷い話だが『蟲使いなんて弱々ジョブに生まれて、罪と思わないんですか?』と問われれば、全力で肯定していただろう。要は心の奥底を吐露させるのだ。そういう意味では、クドーのあいまいな質問は運がよかったと言える。

 ともあれ、エリックは勇者ブレイブの信頼を得たのだ。


「……ところで、あの三人の姿を戻してほしいんですけど……」

「え? ウサギさんかわいくありません?」

「いや、あの三人は普通にかわいいから……いたっ!?」


 エリックの言葉と同時にいきなり後ろから殴ってきた三つの拳。


「エリっちそういう所だからね!」

「可愛いはフリョーに似合わねぇが、今日は許してやるぜ」

「ケプリが可愛いのは当然なので不満はありませんが、ええ、やはり口に出されるとアレですね」


 本当のことを言ったのに殴られるとか理不尽。そう思いながらもクーもネイラもケプリも嬉しそうなので、水を差さないでおくことにした。今重要なのはそう言う事ではない。


「ははぁ、わかりました! いえいえ、勇者は空気が読める子です。いろいろ察しました!」

「…………察しがいいのなら、僕がここまで追いかけられることはなかったんだけど。出来れば人の話を聞くように努力を」

「細かいことは些末です! ともあれ、スキル解除ですね。とりゃー!」


 親指を立ててエリックに『貴方達の仲は理解しました』とばかりに笑みを浮かべるクドー。その後に、拳を天に付き合えるようなポーズをとり、クーたちにかかったスキルを解除する。世界さえ誤魔化すレベルの幻覚が解除され、三人の姿が元の姿に戻った。ついでにクドーのミニスカポリスも解除される。


「そのポーズに意味はあるの?」

「気合です!」

「うん。だと思った」


 わざわざリアクションが大きい勇者である。エリックもなんとなくクドーの性格を理解していた。クーが言っていたように、力を持った子供なのだ。いや、実際に子供なのだろう。見た目と実年齢が同じなら、エリックよりも年齢が低いはずだ。


「それでは私はエリックさんの誤解を解くために皆さんを『説得』してきます! たー!」

「まだ窓からー!?」

「こちらが修理代でーす! それではまた!」


 そして手をあげると同時に、着た時と同じように窓を突き破って外に出ていく。その後で、お金の入った袋を投げ入れた。窓の修繕費には多めの重さだ。迷惑料を含んでいるのだろうか。


「……なんだか、嵐のような子だったね」

勇者ブレイブってあんなもんよ。マジ迷惑」

「むしろ被害的には少なかったんじゃないか? オレらが見ただけで仕事放棄と窓の破壊ぐらいだし。……ウサギは何時か借りを返させてもらうけどな」

「その気があるなら、都市レベルに<幻想結界ファンタズムワールド>をかけて自分の思うように支配できますからね。それを考えれば平和です」


 そうなんだ。ともあれ理解が及ばない相手なんだな、と理解するエリック。


「あー……帰ろうか。もう戻っても大丈夫みたいだし」

「そうだな。おい、世話になったぜ!」


 エリックの言葉に頷くネイラ。『水色セイレーン』の人達に手を振り、店を出る。その後裏路地に回り、周囲にだれもいないことを確認した後にケプリが四人をピラミッドまで転移した。

 その後、ベッドに倒れ込んだと同時に四人は睡魔に身を任せて眠りにつく――


◆       ◇       ◆


「おはようございます!」


 そんな声と共にシーツをはがされ、目を覚ますエリック。見慣れた石畳の天井。柔らかい感触のベッド。そして目の前には――


「クドーさん!?」

「今日の朝食は和風です! ご飯とみそ汁と焼き魚。あ、卵アレルギーとかありますか? 大丈夫でしたら卵かけご飯とかもできますよ!」

「……え? ここ、ピラミッド……ええええええええ!?」


 ここに居るはずがない勇者ブレイブに叫ぶエリック。その叫び声で、隣に寝ていたクー達も目を覚ます。数秒ほど寝ぼけていたが、すぐに状況を把握した。


「皆さんの分のご飯もありますよ! 朝ごはんは一日のエネルギーです! しっかり食べてしっかり働きましょう!」

「転移軌跡からココの座標を読み取って転移してきたようですね。魔力残渣は消したつもりだったのですが」

「はい、見つけるのに苦労しました! ですが頭のよくなる『ツヨイヘンイワシの絶極海塩焼き』からDHAを摂取し、INT上昇! しかる後に追いかけた次第です!」

「相変わらず何言ってるのかわかんねー」


 よくわからないが、クドーがケプリの転移魔法を追いかけてここにやってきたようだ。ネイラの愚痴は全員の代弁でもあった。


「って! 人の家に勝手に上がり込んで何言ってるのよ、アンタ! ジョージキないの!?」

「この場合家主はケプリであってクー様は同居人扱いなのですが、それは伏せておきます」

「大丈夫、勇者は常識たっぷりです! アラクネが食べられないようなチョコやお茶は省いています!」

「…………は?」


 胸を叩くクドーに、気の抜けた声を返すエリック。


「あの、今アラクネって……?」

「はい! クーさん? は、アラクネですよね。食性に会わない素材は省いて――」

「じゃなくて! クーがアラクネだって何時気付いてたの!?」

「初見ですけど? そんなの魂の形ステータスを見れば書いてますよ」

「いや、他人のエーテルなんか普通見えないから!? ……ちなみに、それ誰かに言ったとかは……」

「いいえ。皆さん知っているものかと。でしたらお知らせした方が――」

「やめて! ……その、本人しか知らない秘密を喋っちゃうのは問題でしょう?」

「そうですね! 勇者はプライバシーの侵害をしません!」


 今まさに他人の家に入り込んで朝食まで作っている勇者は、エリックの必死の言いくるめに頷いた。割とちょろい。


「おおっと、もうこんな時間ですね。では私はこれで! 食べ終わったらそのまま置いておいてください。自動で食器回収から洗浄、亜空間への収納が済みますので!  それではよい一日を! あとで『説得』の報告に来ますので!」


 小さな板で時間を確認し、クドーは空間転移してこの場から去る。


「『あとで』来るんだって、エリっち」

「なんだろう。とんでもない爆弾を抱えた気分……」


 責めるようなクーの言葉に、暗澹とした気分で答えるエリック。急所の秘密を知られた相手が暴走正義勇者。相手の動きは予測不能。おまけに力は世界最高峰。

 かくして、『かまどの勇者』クドーとの縁は繋がったのであった――


◆       ◇       ◆


緊急ミッション『勇者クドーから逃げきれ!』

 ……失敗!

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