「あ。いやそれはいろいろ事情があって」
「こ、これは――!」
『キングオークカツ丼』を口にしたエリックは、その歯ごたえから驚きを感じていた。
「サクサクの衣と肉汁たっぷりのオーク肉ゥ。異なる食感のコラボレーションが歯から伝わってくるゥ。心地良い感覚の衣部分の感覚が消えるよりも早く襲い掛かってくる肉汁の津波ィ、それが口の中を蹂躙していくぅぅうぅ!
同時に肉本来の味が舌を刺激っ! 肉そのものに味付けをしているのだろう、噛むたびにあふれ出る様々な味ィィ! それは甘い果汁のようでもあり、厳選された塩のようでもある。年を重ねて熟成されたワインのようでもあり、新鮮なエールのようでもある。噛めば噛むほど味が生まれていくぅぅ!
そしてそれを飲み込めば、体内にあふれ出る肉のパワァァァ! 古代の時代より人は借りをして肉を得てきた。すなわち肉とは狩人の勝利の証。人が動物たちに勝利し、君臨した王者の証。その高揚感。動物の上に立つモノの優越感が身を浸していくぅぅぅ!
そしてその下にある米ェ! それは狩り時代から稲作時代へと人が移り変わり、財源を貯蓄できるようになった文化の兆し。肉食と米作。この歴史の流れは人間と言う種族の歴史の流れ。そう、カツ丼とは人の歴史をかたどった料理ィィ! 時代の移り変わりを舌で感じることのできる言わば食べる勉強なのだァァァ!」
「……ああ、エリっちが壊れたぁ……」
叫ぶエリックを見て、クーが膝から崩れ落ちる。見た目も毛皮を着た原始人風から布の服を着た古代人風になり、そして現代風に戻ってくる。どちらにせよ勇者のスキルに勝てなかったのは事実だ。
「さあ、エリック・ホワイト! 貴方の罪を告白するのです!
この街を襲った連続殺人事件。その犯人は、貴方ですね!」
「いや、違います」
「そうでしょうそうでしょう……って、へ?」
クドーの問いをあっさり否定するエリック。
当たり前と言えば当たり前の話だ。やっていない罪は告白できない。
「え、嘘ォ!? この料理を食べた人間はハイテンションのままに罪を告白するのに!
え? まさか本当にやってないんですか? なんでそれを早く言わないんですか!」
「いや、聞いてくれなかったじゃないか。冤罪で、色々はめられたんだよ!」
「むむ、そういうことですか! では天空神の司祭脅迫やファーガストさんの別荘破壊もそうなんですね!」
「あ。いやそれはいろいろ事情があって」
色々心当たりがあるのか、ぼやかすエリック。
「むむ、怪しいですね。そう言えば嫉妬心の呪いがかかっているのは確かなようです。邪神の手下の気配ぷんぷんです!
ならば問いましょう! 『あなたの罪を、告白してください』!」
どくん。
クドーの言葉に体が支配されたかのような衝動が走る。
クーやネイラやケプリが逆らえなかったように、エリックもこの言葉に逆らえない。この質問を誤魔化すことはできない。
それはクドーの持つスキル<
このスキルによりクー達は『ウサギさん』の役割を与えられた。ウサギは従順。クドーがそう思っている限り、役割を与えられた人間はそれに従う。従順に、主の言葉に従う。
そしてエリックに与えられたのは『罪人』。罪人は法の番人であるクドーに、正しく罪の告白を行う者。クドーがそう信じる限り、『罪人』は虚偽の報告はできない。
罪。
脳裏に浮かぶのは、暴れるアラクネの姿。何度も見た本気で戦うクーの姿。人を喰らい、魂を奪うA-ランクの魔物。それを人が住む街に入れていること。
罪を。
クーがその気になれば、町の人間すべてが喰われるだろう。今はエリックの<
罪を告白。
それは街の人すべてを危険にさらしている。いわば破壊兵器を所持していることに等しい。そう言われれば、否定はできな――
(違う……!)
否定する。クーは危険なんかじゃない。
否定する。クーは誰も襲ったりしない。
否定する。クーは――クーを助けたのは、一緒に居るのは罪なんかじゃない!
「僕は――罪なんか犯していない!」
心の底から、そう言い放つ。
エリック・ホワイトは、
だけどそれは罪じゃない。
神の代行者である勇者のスキルを前に、そう言い放った。
それは誰にも理解できないことだが――神が与えた
「わかりました! 貴方は罪を犯していません!
今まで申し訳ありませんでした!」
言って頭を下げるクドー。そのまま握手を求めて手を刺し伸ばす。
エリックはその手を掴み、和解の意を示した。
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